筑波大学吹奏楽団が定期演奏会における車いす席への配慮を模索している。一般席とは別に車いす席のチケットもインターネットから購入できるようにし、車いす席の隣には介助者席も設ける形で12日、今年2回目の定期演奏会を開いた。車いす利用者である記者も演奏会場を訪れ、団長で数学類3年の小林萌愛さん(21)と副団長で障害科学類3年の宮田桃佳さん(21)から話を聞いた。新たな課題も見え隠れしている。
介助者と隣り合わせの社会距離
楽団では毎年2回、ノバホール(つくば市吾妻)で定期演奏会を開催しているが、コロナ前は障害者への配慮は特に考えていなかった。今年6月、初めて感染対策をしながらの演奏会を準備する中で、一般席と同様に車いす席周辺も1席ずつ間隔を空けるべきではという議論が上がり、楽団内で車いす席の扱いを考え始めた。これまでは特段、車いす席用のチケットを販売していなかったが、「車いす席は会場に4席しかないため、一般席とは分けてチケットを販売する必要があるのでは」と気づき、チケット販売サイトで一般席か車いす席かを選択できるようにした。
議論を進めていた中、宮田さんが「車いす席の隣は介助者が座ることを前提に考えたらどうか」と提案した。宮田さんは週2回、アルバイトで記者の介助をしている。
記者は外出時、常に介助者を同伴しているが、コロナ禍になってから、映画館などで車いす席を予約すると、介助者とは1席分空けて座ることを求められ、上映中に、姿勢を直したり、パンフレットを見る動作を介助者に手伝ってもらうことが難しかった経験がある。介助者はすぐ隣に座った方が演奏会中も気軽に介助を受けられ、演奏会に集中できると考え、宮田さんに相談した。
楽団では当初、観客が隣り合って座らないための張り紙を、車いす席の隣席にもする予定だった。しかし、宮田さんからの提案を受け、車いす席の隣には介助者が座る前提にし、その周囲の客席をどう割り当てたら他の観客とソーシャルディスタンスを保てるか考えた。客席は全て自由席だったが、一般の観客は車いす席の隣には座らないように、介助者席だと分かる張り紙をした。さらに受付から車いす席までの誘導経路も確認した。
多様な障害者への配慮
今年6月と12月に開催した演奏会では、いずれも4つある車いす席は完売した。宮田さんは第86回となる12日の定期演奏会に記者を誘ってくれた。

今回の演奏会で車いす席を購入した40代男性に話を聞くと、「私は歩くことは可能だが、階段の上り下りは大変。今回、車いす席の隣に介助者席もあると聞き、私は介助者同伴ではないが、車いす席の隣席に座ることができれば、階段を使わずに席まで行けると思い、車いす席を購入した」という。
小林さんは「今まであまり障害について学んだことがなく、車いす席の必要性までは考えられても、介助者を同伴する障害者の存在など知らないことが多く、もっと普段から問題意識を持つ必要があると気づいた」と話す。
宮田さんは「大学で障害について学んでいるが、今まで車いす席のことをあまり考えていなかった。しかし、私から楽団に提案すると、チケット担当や当日の受付担当など、団員それぞれの役割の中でできることを考えてもらえた。準備段階から車いす席の存在を考慮に入れておけば、多くの人が参加しやすい環境にできることに気づいた」と振り返る。
宮田さんは今年度で楽団を引退する予定。「車いす席の配慮は後輩に継承してもらいたい。今後は、車いす席だけでなく、長時間着席することが難しい人など、多様な障害を持つ人への配慮も考えていければ」と楽団に期待する。(川端舞)