【コラム・浅井和幸】かなり前になりますが、知り合いのプロのアナウンサーからこんなことを聞きました。例えば、結婚式の司会をするとします。素人の中にもプロ顔負けのしゃべりのうまい人、進行のうまい人はたくさんいます。ですが、プロと素人との違いは、ミスをしたときやハプニングのときの対応力の違いです。想定外のことが起こって、そこから立て直して進めることができるのは大切なことです。そして、ミスをミスと感じさせないテクニックもプロは持っていたりもします。

この話を思い出したのは、つい最近のことです。どうして思い出したかというと、私は数年前から素人の楽団に参加させてもらっています。マンドリン、ギター、コントラバス、パーカッション、フルートなどの数十人で、演奏を楽しんでいます。そこに、プロの先生が指揮者として、演奏指導として来られています。面白い先生で、ときにはユーモアを交えて分かりやすく指導をしていただいています。おかげで楽しい雰囲気で練習ができ、300人ほどの前で無料コンサートもしています。

ある練習のとき、その先生が話してくれたことが印象に残っています。「皆さんはミスをすると、いかにも自分がミスしましたよと、変なリアクションをしますよね。譜面をのぞき込んだり、まずいと変顔をしたり。ミスをしたところにいつまでも拘っていると、進んでいる曲の今の演奏の部分がおろそかになります」。

「うまい人は、ミスをしても曲が進んでいるのならば、そのミスを引きずらずに次のことを考えます。引きずっている場合じゃないはずなんです。終わったところにかまっていられるほど暇ではなく、次の演奏で考えなければいけないこと、やらなければいけないことがたくさんあるからなんです」

嫌なことを感じるだけの毎日はつらい

この話を聞き、私たちの毎日の生活でも同じことが言えると思いました。生活しているうえで、どの部分を考えて行動するのかは、人それぞれの価値観なので唯一の正しいことというものはないと思います。しかし、物事をよりよくしていこうと思うのであれば、ミスをいつまでも味わい続け過ぎてはもったいないでしょう。

もちろん、そのミスを次に生かすために練習する場合は、ミスに立ち返って、うまくいくような方法を考えて練習することは大切です。しかし、練習はせずにミスだけを味わい続けると、ミスをするための練習になってしまいかねません。嫌なことを感じるだけの毎日はつらいです。

私たちは生きることの素人なのかもしれませんので、過去のミスに縛り付けられて苦しみ続けることもあります。ときには、あまりの大きな衝撃のためであったり、脳の特徴や心の病のためであったりで、過去の苦しさを感じ続けるしか手のないこともあるでしょう。それでも、明日には少しでも楽しみを感じられるような、今の生き方を考えて行動できたらなと思うのです。(精神保健福祉士)