【コラム・奥井登美子】暑さと寒さの気温の差が激しい。血圧が上がったり、下がったり、気をもんでいる患者さんがやたら多い。植物の世界も、昆虫の世界も、人間の血圧と同じように、寒暖の差と雨の降り方の急激な変化についていけなくなってしまっている。
我が家の庭の木の実も、今年はチトおかしい。ギンナンはいつもの年の大きさの半分以下。アズキを少し大きくしたぐらいの大きさなので、煎って殻を割って、中の緑色の玉を指で引っ張り出せない。秋の味覚、緑色に輝く初物のギンナンを諦めざるを得なくなってしまった。ここ50年以上、ギンナンの実がこんなに小さかったのは初めての体験である。
さて、この食べられない小さなギンナンをどうすればいいか、困ってしまった。「登美子さん、いる? ドングリで人形を作ろうよ」。私の年下のボーイフレンド、晃太郎が週に1回やってくる。今年も、コロナ禍で昆虫観察会は中止になってしまったが、5歳の彼は「どんぐり山」で拾ってきたクヌギのドングリが丸くて大きいので、おもちゃ代わりにいじっていた。
雛人形やバレリーナ人形
そのうち、虫が中に入ってしまって穴の開いたドングリが気にいったらしい。その穴を口に見立て、目玉を張り付けて、ドングリ人形を作ったり、穴にひもを通して、パパとママにネックレスを作ってプレゼントしたりしているうちに、ドングリ細工にのめり込んでしまった。
レンコンのハスの実の干した花托(かたく)の上に、クヌギのドングリを張り付けて、独特の形をしたクヌギの帽子をかぶせてみたら、あら不思議、バレリーナ人形になってしまった。彼は曲がった枝を張り付けて、足まで付けてしまった。この人形はレンコンの新しい細工品になるかも知れない。小さくて食べられなくて困っていたギンナンも、ストローの先につけて、雛(ひな)人形に変身させた。
彼は来年小学生。あと2~3年したら、ドングリで遊んだことなどケロッと忘れてしまうに違いない。しかし、幼い時に遊んだドングリを通して、地球環境問題の中で自然の木の実の生きる厳しさを知ってほしい。(随筆家、薬剤師)