【コラム・塚本一也】コロナ禍で少々うんざりしているところではありますが、「夏休み特別企画」ということで、真岡鐵道のSLに乗ってきました。真岡鐵道真岡線は茨城県の下館駅から栃木県の茂木駅まで、41.9キロを運行する第3セクターの鉄道会社です。
国鉄の分割民営化の際に、赤字ローカル線であった真岡線を存続させるため、1987年、栃木県と沿線自治体が出資して真岡鐵道株式会社を設立されました。1994年から、休日のみ、「SLもおか」(下館駅~茂木駅)を1往復半運行しています。全国でSLに乗車できる路線は9つありますが、関東では埼玉県の秩父鉄道と茨城県~栃木県の真岡鐵道だけです。
会社自体は栃木県の会社ですが、茨城県の下館駅から乗車できるということで、私もかねてから注目していました。
インターネットで予約し、日曜日の午後に真岡駅から下館駅まで乗車しました。普通列車で真岡駅に到着してまず驚いたことは、真岡駅(真岡鐵道の本社)自体がSLをデザインした造りになっていることです。そのほかにも、敷地内にSL展示館があったり、SL関連グッズを販売していたりと、さすが有名な観光地を抱える県は商魂がたくましいと感じました。
非日常感をあおる レトロ感あふれる客車
その日はオリンピックも開催されており、コロナ患者数も連日記録を伸ばしている最中であったため、観光客らしい姿はあまり見かけられませんでした。しかし、近隣からいらしたとお見受けする家族連れや、鉄道マニアらしき少年たちが、早い時間から列車を心待ちにしていました。
定刻通りに、蒸気機関車が汽笛吹鳴(きてきすいめい)と共にホームに進入してくると、「鉄ちゃん」というわけではない私でも、何となくウキウキとしてきます。車内に乗り込むと、独特の油の臭いが鼻をつき、扇風機で涼をしのぐレトロ感あふれる客車も非日常感をあおります。
列車が出発すると、沿線には週末の楽しみに蒸気機関車を一目見ようとする見物客やカメラマン、そして我々乗客に大きく手を振る近隣の方が鈴なりでした。真岡鐵道が地域に愛されているということが、しみじみと実感できた瞬間です。
蒸気機関車を運行するためには、機関車の向きを変えるための「転車台(てんしゃだい)」という設備が必要です。真岡駅と茂木駅に転車台がありますが、下館駅にはありません。ゆえに下館駅を始終点としたことによって、気動車で機関車を回送するという手間が発生します。
しかし、下館駅から直接蒸気機関車に接続できることで、首都圏からの観光客を呼び込む大きなメリットが発生します。茨城県が観光立県を目指すのならば、観光先進県とタッグを組むことも重要なことなのではないでしょうか。(一級建築士)