【コラム・古家晴美】もうすぐゴールデンウイークだ。時節柄、自粛生活を選ばれる方も多いだろう。今回はゴールデンウイーク中に迎える端午の節句について触れてみたい。単語の節句の食べ物といえば、最初に思い付くのが柏(かしわ)餅かもしれない。現在では和菓子店の店頭に並ぶが、最近まで自宅で手作りすることが普通であった。
初節句のときに、お祝いをいただいた家に柏餅をお返しとして配った(牛久市、かすみがうら市、つくば市、土浦市、龍ケ崎市、阿見町、行方市など)。柏餅以外に、白い餅(かすみがうら市、行方市)や草餅(稲敷市、つくば市、行方市)を配ったり、赤飯をふかして食べることもあった(稲敷市、つくば市、龍ケ崎市)。
県北地域や鹿行地域では、柏餅のほかに、しんこ餅(米粉の餅に食紅で赤や緑の色を点々とつける)を作ったり、柏の葉がない家では、茗荷(ミョウガ)の葉や朴(ホオ)の葉を用いることもあったと言う。
さらに全国的に見ると、その多様性に目を見張る。柏餅とちまき、笹(ササ)団子、笹餅などが入り乱れて分布しており、一概に「東の柏餅」「西のちまき」とは言い切れない。
シンプルに見える「ちまき」でも、中身がもち米のもの(山形県)、米粉のもの(山形県)、両方をブレンドしたもの(福井県)、小麦粉のもの(徳島県)、包む葉が笹(新潟県、山形県、新潟県、富山県、福井県、大阪府、三重県)以外に、カヤ・ヨシの葉(愛知県、奈良県、兵庫県、徳島県)、あるいはススキの葉でつと状に包む(愛知県)など、さまざまだ。
子どもの成長と家の繁栄を願う
柏餅も、柏の葉以外に、サルトリイバラの葉(三重県)や朴の葉(静岡県)を用い、これに干だらを添えて、お祝いのお返しとする(東京都、埼玉県)。中身に米粉以外に、もち米・粟の粉・きびの粉(静岡県)を用いることもある。
むろん、この他に、初節句の来客に対しては、銘々膳もしくは大皿で、天ぷら、白和え、キンピラなど、地域によっては、刺身、煮魚、色とりどりの太巻きずしなどのご馳走が出される。
ところで、奈良県には、特大のちまき2本と柏餅をイグサで縛り付けた「ふんぐり」という行事食がある。これは、特に入り婿した家で初節句を迎える際に、婿の実家に贈られていた。男性の象徴であることは、形態からも名称からも容易に想像がつく。
このように、節句のごちそうは、気候や産物などが深く関わり生み出された行事食だが、その根底に流れる子どもの成長と共に家の繁栄を願う切実な思いは、共通している。今日でも、形を変えつつ、子どものイベントで作られる行事食として「こんぐり(こふんぐりが語源)」が生き続けている所以(ゆえん)ではなかろうか。(筑波学院大学教授)