【コラム・玉置晋】僕の仕事は衛星が健全に働いているのかを診断すること。姿勢は安定しているか?適正な電力は得られているか?宇宙放射線により障害が起きていないか?―などをみています。ありとあらゆるデータから衛星の状態を想像するのです。データに数理的な処理を施し、見えないものを見る。心眼を要する職人技です。宇宙天気アナリストとしての僕も、今はこの仕事の枠組みの中にいます。近い将来どう展開していこうか悩み中。

宇宙を飛んでいる衛星は、お日様の当たる部分は100℃、影の部分は-100℃の温度地獄、ヴァン・アレン帯(磁場の放射線帯)や太陽放射線や銀河宇宙線による放射線地獄―など、地上より大分過酷な環境にさらされています。近年はスペースデブリ(宇宙ごみ)が飛んでくれば、スラスタ(ロケットエンジンなど)を噴いて回避しないといけないこともあります。SFみたいですが、これがリアルな宇宙の状況です。そこは、夢やロマンの世界ではなく、インフラを維持する仕事の一つなのです。

現代社会において、衛星が使えなくなったら、どこまで私たちの生活に影響が出てくるのか。GPSが使えなくなったら、方向音痴の私は行きたいお店にたどり着けずに妻に怒られるだろうとか(あれ?そんな程度か?)。うん、衛星がなくたって、生きてはいけます。だって100年前は衛星がなくたって社会はまわっていたのですから。

現代社会は、知らないところで相当に宇宙インフラに依存してしまっています。安全保障分野しかり。より専門的、精密なことを対象としている領域で深刻な影響を受けます。そして、じわじわと私たちの生活にも影響が出てきて、「これは大変だ」となると想像します。これは宇宙開発の意義にも関わる話なので、いつか学生たちと議論してみたいです。

僕の年末はなかなか忙しかったというか。クリスマス前に人工衛星の打ち上げがあり、夜勤で衛星運用室につめていました。宇宙の天気も地球の天気も問題なく、ロケットは時間通りに打ち上げられました。ロケットの打ち上げは、延期されることも多々あります。今回の打上げは12月23日でした。クリスマス直前です。延期の可能性もあったため、予定を入れられないじゃないですか。その為、修羅場を迎えた若者がいたとか、いないとか。彼らの犠牲のおかげで(?)打ち上げは成功しました。感謝。

実は僕、ロケットの打ち上げを生で観たことないのです。なぜかというといつも仕事でつくばの運用室にいるから。いつか観に行ってみたいです。仕事じゃなくて、プライベートでね。(宇宙天気防災研究者)