【コラム・冠木新市】記念すべき第1回アカデミー賞授賞式は1929年5月16日、米国ロサンゼルスのルーズベルト・ホテルで開催され、玄関には彫刻家コディ・ヒューストン作のブロンズ像が飾られた。この像は西部劇の撮影を表現したもので、ジョン・フォード監督や14人のカウボーイスターの雄姿が彫られてある。長い間、多くのファンに愛された彫刻物だが、いまは米国には残っていない。どこに消えたのか。
実はつくば中心市街地の市民ギャラリー休憩所に無造作に置いてある。説明プレートの右上は欠け落ち、全体を白いテープで止めてある。私が『つくつくつくばの七不思議 サイコドン』(ACCS)でロケしたときには、ゴキブリの死骸を片付けて撮影した。米国から寄贈されたアート作品をこのままにしておいてよいのだろうか。
C・イーストウッド監督・主演『許されざる者』
第1回アカデミー賞の翌年1930年の5月31日、後の大スターで名監督クリント・イーストウッドが生まれた。現在90歳になるが、監督・主演の新作に取り組んでいて生きる映画史ともいえる。イーストウッドは日本、欧州で映画作家として認められ、米国では遅れて評価された。最後の西部劇と言われた『許されざる者』(1992)で第65回アカデミーの作品賞と監督賞を授賞した。この作品は正義とは何かをめぐって一筋縄ではいかない内容となっている。
ウィリアム・マニー(クリント・イーストウッド)は冷酷な殺し屋だったが、3年前に亡くなった妻のおかげで改心し、幼い息子と娘を育てている貧しい農夫だ。そんな彼のもとに若い男から殺しの誘いがくる。ビック・ウィスキーという町で、若い娼婦の顔が牧童から滅多切りにされた。娼婦たちは保安官のリトル・ビル(ジーン・ハックマン)に訴えるが、軽い刑で済ませる。怒った娼婦たちは貯えなどをはたいて1000ドルの賞金を作る。マニーは牧童殺しの仕事を昔の仲間を誘って引き受ける。
保安官のビルは町での拳銃所持を禁じ、自分1人で家を建て、強固な信念で町を守る一見正義を体現する人物に映る。しかし威圧的で過剰な暴力をふるい、流れ者やグズを下劣と見なしている。保安官助手に言わせると、ビルの建てている家は歪んでいる。町に入ったマニーは、ビルから殴り倒され瀕死(ひんし)の重症を負う。そして顔に傷を負った若い娼婦の看病を受ける。マニーは若い娼婦を心根の美しい女性だと見ていることが分かってくる。
「中心市街地リニューアル」は是か否か
『広報つくば3月号』が発行された。「つくば中心市街地の魅力づくりが本格化します」「つくばセンタービル・センター広場のリニューアルを進めています」と、初めて内容が市民に発表された。市のホームページでチェックしていない市民にとっては、いきなり号外のように感じたのではなかろうか。
「スマートシティ」や「スーパーシティ」のニュースは次々流れてくるが、中心市街地リニューアルの件は1年近く伏せられてきた。これから、強引にセンター広場の階段は壊され、エスカレーター2基が付けられる。アイアイモールは変形し、窓ガラスは全部取り替えられ、イノベーションセンターには意味のないテラスが造られる。
私はぜひ知りたい。つくば市議会議員が『許されざる者』を見たとしたら、保安官のビルを支持するのか、改心したマニーを支持するのか、を。いま、つくばセンターでは文化をめぐって「西部劇」が繰り広げられている。アカデミー記念の彫刻はセンタービルのホテルロビーに置くのがふさわしいと思う。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家)