【コラム・斉藤裕之】「八郷の山中でアケビのつるを取っていた人が見つけました。里親募集…」。その日SNSで見かけた友人の投稿。生後間もない、まるまるとした子犬の画像。それも6匹。カミさんに見せようかどうか迷った。
コロナ禍ではあるし、この歳になると特に欲しいものもない。「あえて言えば犬がいいなあ…」とつぶやくカミさん。ちょっと待った。昨年飼い終えたフーちゃんで、犬人生はお開きになったはず。しかし出かけた先のホームセンターでは、ペットコーナーに必ず立ち寄る。
「こういう犬はあまり好きじゃないけど…」と言いながら、おもちゃのような子犬を眺めている。驚くような値段に「軽トラ買えるな」と私。思い切って友人の画像を見せた。「かわいいけど、この子たちは多分大きくなりそうね…」。興味津々ながらそこは冷静。
その日は2月には珍しいぐらいに暖かく良い天気。茨城空港の空の駅「そらら」でヨーグルトとプリンを買って涸沼(ひぬま)、鉾田を巡るコースにお出かけ。しかし、お昼を当てにしたお店がお休みで急きょ、那珂湊のおさかな市場に行き先を変更。さてと、魚も買ったし、帰ろうかと思ったときに、ふとひらめいたのが水戸のはずれにある骨董(こっとう)店。
隠れ家のような敷地の青いペンキで塗られた扉を開けると、薄暗い店内には骨董ともアンティークも違う、ご主人曰(いわ)く「ジャンク」なお宝が所狭しと置かれている。「いらっしゃいませ」の声もないが、奥にカウンターのようなところがあり、そこをのぞき込むカミさん。
また朝晩の散歩が始まる
実は半年ほど前に訪れたときに、カミさんはその犬に出会っていた。そのときは確か2匹の犬がいて、お目当ての犬はこのカウンター内の三和土(たたき)に気持ちよさそうに寝ていた。手足の長い白い犬。「里親募集」と張り紙がしてあった。カミさんはどうやらその犬が気になっていたらしい。そのことを思い出して再度訪れてみたのだ。
「すいませ~ん、犬についてちょっと…」。奥から現れた優しそうなご主人と3匹の犬。どれもペットショップにはいないタイプのなんとも可愛げのある犬たち。その中にあの白い犬もいた。聞けば、保護犬を預かって里親に出すお手伝いをされているそうで、この白い犬は殺処分を免れた1歳ちょっとの女の子。少しおどおどしているが、優しい性格だという。リードをつけて敷地内を少し散歩させてもらった。
間もなくして、飼育環境を確認するためにご主人がやって来た。そのとき書類を見て、実はお店を訪れた日からちょうど1年前の同じ日に保護されたことがわかった。「ママが好きなのは『びょう』と鳴く犬だね!」「なにそれ?」「ペットショップでキャンキャン鳴いているんじゃなくてさ…」。
八郷の子犬はすべて引き取り手が見つかったそうだ。やれやれ、また朝晩の散歩が始まるのか。(画家)