【コラム・瀧田薫】アメリカ市場で「ダウ平均株価」が初めて3万ドル台に乗った。トランプ大統領による「バイデンが勝利すれば株価は暴落する」とのご託宣は大外れで、自称・ビジネスの天才としては赤っ恥もいいところだ。

しかし、この未曾有(みぞう)の株高はバイデン氏の勝利に直接結びつくものではない。コロナウィルスの恐怖に凍りついた経済を支えるため、アメリカをはじめとする主要国が総額10兆ドル(1000兆円 未曾有の規模 日経・11月25日付)を超える財政支出に動いたこと、それが株高をもたらした最大の要因だろう。

ワクチン開発への期待も多少は後押ししたかもしれないが、ウィルスの跳梁(ちょうりょう)が続く限り、財政拡大や金融緩和政策が続くはずだという期待(人命にかかわる政策には誰も反対できない)の方が大きいだろう。また、コロナ禍が勝ち組企業と負け組企業を鮮明に色分けした結果、「買いと売り」の判断に迷いがなくなったことも株高につながっただろう。

しかし、この株高は一時のにぎわいでしかない。膨張する国家債務、実態経済というアンカーを持たない緩和マネーが暴走し始めたら、そのとんでもないツケが回っていく先は、富裕層ではなく、株を買いたくても買えない大方の国民の方である。

コロナ禍は、勝ち組企業と負け組企業を分けただけではない。キャピタルゲインを積み上げる富裕層とひたすら真面目に働くしかない人々との間に、巨大な「格差と分断」をもたらしつつある。

民主党 上院で過半数失う可能性も

ところで、バイデン次期大統領はその勝利宣言で「分断ではなく、団結させる大統領になることを誓う」と述べたが、トランプ大統領は敗北を認めず、選挙に不正があったとして法廷闘争に打って出た。これに呼応して、トランプ氏の支持者の多くが大統領のツィッター「盗まれた選挙」に同調し、トランプ大統領支持の思いを募らせている。

トランプ大統領は、過去4年間、自分の支持層だけに語り掛け、政敵の言は「フェイク」の一言で片づける政治姿勢を貫いてきた。つまり、アメリカ建国以来の「分断」(人種、所得格差、生活信条、地理、世代、党派)を、むしろあおることで自らの支持層を拡大してきたのである。

確かに、トランプ氏は、エリート政治家に反感を抱く人々に政治参加の道を開いた。しかし、その代わりに、国内の分断をより先鋭なものにしたのも事実だ。今回の選挙でトランプ氏が獲得した7000万票は、トランプ氏が大統領職を退いた後も、いわゆる「岩盤」として残り、何かのきっかけで再浮上する可能性が高い。

ちなみに、バイデン氏の与党・民主党は、来年1月にジョージア州で実施される2組の決戦投票次第で、上院での過半数を失う可能性がある。その場合、バイデン氏の選挙公約の実現が難しくなるばかりか、それ以前に、バイデン氏が選んだ閣僚候補者の就任が上院で否決される可能性がある。バイデン次期大統領はスタートからいばらの道を歩むことになりそうだ。(茨城キリスト教大学名誉教授)