利用されていた頃の里山の雑木林はとても明るく、多種多様な植物、昆虫が見られました。人の手が入ることで維持されてきた里山ですが、放置が続いたことで、絶滅危惧種の1/4が里山で確認されるようになりました。里山の絶滅の危機にある生き物を救うのには、かつてのように手を入れることが必要です。どのように手を加えることが望ましいかを、地元の方や里山の研究者から教えていただき、雑木林も手を加えてきました。
里山の林を彩る代表選手はヤマツツジです。里山が新緑に包まれる5月、比較的明るい林に、朱色の花を咲かせます。ヤマツツジが咲く条件は、林に30%以上の光量がある事が必要で、樹冠が葉に覆われると花をつけなくなるとのことで、下草を刈るだけでなく、明るい林の再現を目指しました。使われていた頃の林は樹の高さが今よりずっと低く、また常緑樹も僅かでした。そこで可能な限り樹木の伐採を行っています。また大きく枝を伸ばした常緑樹の下は一年中光が当たらず、暗い森になります。そこで、シラカシ、アラカシ、シロダモなどの常緑樹の伐採を心掛けています。ヒサカキは高木にはなりませんが、数が多い林ではやはり暗い森になります。ヒサカキも除伐しています。
また、夏の花として有名なヤマユリ、木陰などで姿が見えなくても、どこからか百合の香りが漂い、その存在を伝えてくれます。ヤマユリのように、夏に咲く花々は、夏下草刈りを行うと失われます。夏草の花を見るためには、冬季林の下草を刈る事が必須であることを地元の方から教わりました。
宍塚には、専業農家によって昭和22年から冬季の草刈りが続けられてきた場所があります。そこはヤマユリだけでなく絶滅危惧種の宝庫です。以前、(独法)森林総合研究所で里山のことを研究されている方を案内したことがありますが、その場に足を踏み入れた途端、ここは落ち葉掻きが行われていますねと、すぐ見抜かれました。下草刈りと同時に農家が堆肥用にと、毎年刈った草は持ち帰ることが続けられていたのです。地面は柔らかな苔に覆われていますが、この苔こそが下草刈りを継続してきた証なのだそうです。
現在、その農家が行っていたやり方で、会が冬季下草を刈り、落ち葉掻きを行っています。その場所に限らず、冬季草を刈り、落ち葉掻きを行い、多様な野草、昆虫などの生育を助けている林が数カ所あります。しかし、人が通る道路沿いの林は、夏草を刈り、すがすがしい林の散策を楽しんでいただいています。それらの場所も常緑樹の伐採を行い、明るい気持ちの良い場所になっています。(及川ひろみ)