【鈴木宏子】つくばセンタービルのリニューアル計画では、センター広場に屋根をかける計画も検討されている。今回公表されたリニューアルの方向性案には「(センター広場は)多くのイベントが実施されているが、雨天であると実施が難しいなど運営面のリスクが高いことから、雨天時でも実施できるよう屋根の設置を検討する」とある。
今回公表された整備費用約9億8960万円(または約13億6280万円)は屋根を含めた概算費用になるという。「屋根については公共施設基本計画を進める中で検討」(市長・副市長報告案件指示要項)するとされている。
どんな屋根が検討されているのか。2019年3月策定の「つくばセンタービルあり方検討業務報告書」によると、軽量で透明性の高いアーチ状のドーム型屋根が検討されている。骨組みは木材を材質とし、「広場の楕円形に沿って剛強リング梁を設け、リング梁同士の間にアーチ状の架構を渡す」などとかなり具体的な記載がある。費用は非開示。イベントの都度、組み立てて設置するテント式の立派な屋根も各地の式典やコンサートなどですでに使用されているが、可動式の屋根は検討すらされていない。
固定式のドーム型屋根は建物全体のデザインやアート建築としての思想を変えることにならないか。
プリツカー賞受賞
つくばセンタービルは筑波研究学園都市のランドマークとして1983年に造られた。昨年、建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞した建築家、磯崎新氏の代表作の一つ(19年3月7日)。ポストモダン建築の代表作品ともいわれる。
センター広場は、ローマのカンピドリオ広場を反転した作品とされる。磯崎氏はその思想を「建築のパフォーマンスーつくばセンタービル論争」(パルコ出版局)で、筑波研究学園都市という国家プロジェクトでつくられた街ゆえに、中心に国家のシンボルを描き出すのではなく「中心を空間にし、空間の中に向かって消滅していくような反転した空間をつくり上げた」と述べている。
新しくつくられた街の中心には、普通なら周囲から目を引くシンボルとなる建物をつくるが、磯崎氏は、国家のシンボルをそびえさせるのではなく、あえて中心に沈み込む空間をつくった。
市はリニューアルの方向性案で、センタービルの課題として「店舗を外から視認できない」と、外から見えにくいことが集客する上で課題の一つだと指摘しているが、センター広場の、沈み込む空間こそが磯崎氏のメッセージとなっている。
文化的な事件
同方向性案で市は「磯崎氏の設計思想を継承する」とし、磯崎氏本人から「この建物が転用されていくことについて、それは建築の宿命。庭(センター広場)は500年くらい残っていくものである」という意見を伺ったと記している。
磯崎氏本人の意見は、情報開示された「つくばセンタービルあり方検討業務委託報告書」(2019年3月策定)にもっと詳しく記載されている。
設計者へのヒヤリングによると、磯崎氏は以下のように語っている。
「センタービルは、文化的な事件として世界的な議論が行われた。メディア的な建築、建物が初めてここで出てきた」
「ベラスケスの『ラス・メニーナス』という絵画を構成する視線としての王=不在の王を引き合いに出すと、この『にわ』の不在はその視線がつくり出す建築として、各所に多くの建築の部分が引用されている。それを『読み解く』ことを建築というものが(書物のように)つくることができるということを示したことが事件であり、この建築のメディア性だった」
「中庭は『広場』(カンピドリオ広場)を反転することによって出来上がっている。それは何かといえば『にわ』として考えられる」
「この建物が『転用されていく』ことについて。それは建築の宿命。そこで自分は『にわ』について考えたい。歴史的に建築建物が壊れたとしても、中庭は祖型として500年ぐらい残っていくであろうし、そうあるように考えていた。それはアートの領域として考えてきたものだった」
「兵馬俑やローマのように、またメトロポリタンのセンター部、神殿の上にかかっている屋根の下の空間のように、この中庭が覆われたとしたら、建物以上に覆うことで皇族の儀式や世界的なイベントを開くにふさわしい空間としてつくばを代表する空間になるようなことぐらいのスケールで考えてほしい」
「そういった公共建築についての『事件=事例』が建築として今も使い続けられていることに、設計者としてはよろしくお願いしますという気持ちである」
市民にとって、つくばセンタービルは今どのような存在だろうか。
第1部 終わり
【訂正】第2段落「整備費用約9億8960万円(または約13億6280万円)の中に屋根は含まれていない」を「整備費用約9億8960万円は屋根を含めた概算費用になるという」に訂正しました。(29日)