【コラム・奥井登美子】「可愛いでしょう。私が作ったマスクなの、使ってみてください」「隣の小母さんが、私に作ってくれたマスクなの、どう似合うでしょう」
マスク不足を逆手にとって、手作りのマスクがいつの間にか、流行の一端、ファッションに昇格してしまった。ファッションショーで、目のきれいな女優さんが着けて歩いたら、面白い風景になる。プレゼント用としても、けっこう珍重されている。
ファッションの一部にもならないのがコロナ消毒薬。インフルエンザなどの感染症が流行るたびに、薬剤師会での勉強会は、消毒薬に関する法律と、その使い方だった。ウイルスの関わる感染症は、それぞれ実に個性的で、消毒薬も取り扱い方も千差万別なのだ。今回は研修会も全部取り止めになってしまったので、よくわからないままに、アルコール系のものがいいといわれている。
「簡易エタノール検知器」
私が今年、庭の薔薇(ばら)の手入れを後回しにしたのは、薔薇の棘(とげ)などが手に刺さったものなら、アルコール系の消毒薬は飛び上がるほど痛くて、怖くて、使えなくなってしまうからだ。
消毒用エタノールはアルコール70%液なのだが,それで手を消毒すると、皮膚に浸(し)みて痛い。アルコールはRNA(リボ核酸)の蛋白(たんぱく)質を溶かすといわれているが、手の皮の蛋白質にも影響があるのではないかと思う。
市販の消毒薬は50種類くらいあって、その中でアルコール系も20種くらいある。今、どこのお店でも入り口に消毒用の液体が置いてある。消毒薬の中にどのくらいのアルコールが入っているか。70%、50%、20%、手の浸み具合でわかる。私の手はいつの間にか、「簡易エタノール検知器」になってしまっていた。(随筆家、薬剤師)