厚生労働省は地方自治体、保健福祉医療介護団体、報道機関などに「地域包括ケアシステム」の資料を提供しているが、市町村は住民向けの「市民べんり帳」や「みんなのあんしん介護保険」に「地域包括ケアシステム」の解説をしていない。市のホームページを見ても説明は見当たらない。市の「高齢者福祉計画」では解説されているが、市のホームページを読んでいる市民はごく少ない。
「地域包括ケアシステム」が、国レベルの文書の中で初めて使われたのは、2003年6月に高齢者介護研究会がまとめた報告書「2015年の高齢者介護」である。それ以来、厚労省も地方自治体も十分な説明を住民にしてこなかった。ここ3年前から、厚労省は苦しい介護保険財政対策として、介護度が軽い人たちに介護保険の居宅生活支援サービスを制限し、市町村の責任で「介護予防・日常生活支援総合事業」によるサービスを提供する施策に変更してきた。ここで初めて市町村は市民に対し、「地域包括ケアシステム」を説明し始めた。
厚労省は「地域包括ケアシステム」を「地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」と説明している。
私は開業したときから、寝たきり、あるいは寝たきりに近い状態の高齢者に定期的往診をしていた。その大半が農家であり、脳血管障害後遺症、あるいは骨・関節疾患により自分で身の回りのことが出来なくなった人たちであった。入院治療を終え退院してきた人、いつの間にか自宅で寝たきりになった人たちで、その原因は高血圧、糖尿病、農作業と加齢(老い)による骨・関節の変形と骨折後遺症等であった。
高血圧と糖尿病については、村の保健師の協力を得て食生活と日常生活動作改善の指導を行った。患者さんだけでなく家族の意識改革にも努めた。「呼び寄せ老人」の閉じこもりには方言ボランティアをお願いした。
振り返ってみれば、当時から私の頭のなかに「地域包括ケア」が萌芽していたのだと思う。開業医を辞めて8年経過したが、「地域包括ケア」への想いは大きく続いている。このコラムで誰でも参加できる「地域包括ケア」を提言、提案していきたい。(室生勝)
【むろう・まさる】1960年東京医大卒、70年東京医大霞ケ浦病院内科医長。76年つくば市で室生内科医院開業。91年つくば医療福祉事例検討会(月例)を立ちあげる。95年第2回Ciba地域医療賞(現ノルバティス地域医療賞)受賞。2006年室生医院閉院。2000年から、つくば市高齢者保健福祉推進会議委員。現在、高齢者サロン「ゆうゆう」を研究学園駅前で主宰。著書に「地域の中の在宅ケア」(医歯薬出版)、「このまちがすきだから」(STEP)、「僕はあきらめない-町医者の往診30年-」(著・橋立多美、語り・室生勝、那珂書房)など。京都府生まれ、つくば市在住。82歳。