【コラム・冠木新市】中国の武漢で発生した新型コロナウイルスが猛威をふるっている。連日、TVニュースでは世界地図が映し出され、朱色で感染エリアの広がりと各国の感染者数の増加とを伝えている。それを見る度にウイルスの前では、国境、人種、性別、世代、職業、貧富、中央と地方、中心と周辺の区別は無意味だと教えられる。
また新型コロナの、丸い形にトゲトゲがついた写真も度々出てくるが、私には暗い宇宙空間に浮かぶUFOのように見えてしまう。そして、今回の大騒動もSF映画の宇宙人による地球侵略物を想像してしまうのだ。
H・G・ウエルズのSF小説を映画化した『宇宙戦争』(1958)では、ある日突然、火星から来た空飛ぶ円盤が光線を発し、都市と人類を襲撃する。人類には対抗する手段がなく、一方的にやられっぱなしである。
しかしラストシーン近くになって、これまた突然に、円盤が次々と地上に落下して自滅してしまう。火星人を倒したのは地球上にうごめくウイルスだった。後にスピルバーグ監督がリメイクした『宇宙戦争』(2005)でも、ラストの展開は同じだった。
ティム・バートン監督『マーズ・アタック!』
ティム・バートン監督の『マーズ・アタック!』(1996)に登場する火星人は、早々から姿を現わす。巨大な脳みそをむき出しにした頭。トンボの目を思わせる大きな目玉。骸骨みたいな鼻と口元。これを防御するヘルメット(きっとウエルズの小説から細菌対策をとったに違いない)。実に醜悪の極みである。
火星人は一見、平和の使者を装いつつ、善良な地球人(アメリカ人)を陰でせせら笑い、会議場内で侵略を宣言すると(火星語でグエッグエッとしか聞こえない)、いきなり光線銃で皆殺しにしてしまう。アメリカの防衛力では太刀打ちできない。
終盤になると、追いつめられた大統領は「お互い仲良くやれないか」と感動的なスピーチをし、火星人の涙を誘うが、すぐ様、大統領は抹殺されてしまうのだ。まったく油断のならない残酷な宇宙人である。そして人類は完全にお手上げかとなったとき、思わぬ方法で逆転する。
1人の青年が、老人ホームにいる認知症の祖母の身を案じ駆けつける。祖母はレコードプレーヤーでウエスタンソングをイヤホンで楽しんでいる。火星人が背後に近づき、焼き殺そうとした瞬間、孫が飛び込み、祖母がイヤホンを抜くと音楽が室内に響き渡る。すると、火星人は悶え苦しみ、脳みそが破裂し、緑色の液体がヘルメットに飛び散る。
何の説明もないが、どうやら火星人にとってはのんびりした音楽が命取りだったようだ。この設定は、ゴジラ映画『怪獣大戦争』(1965)のX星人を防犯電波で倒すアイデアをアレンジしたものである。
新型コロナ 特効薬は民謡?
火星人はなぜウエスタンソングに弱いのか考えてみた。きっと、侵略者の好むリズムとウエスタンソングのリズムは決定的に合わなかったのだ。ウエスタンソング、つまり民謡は、行け行けドンドンの侵略者にとっては神経を逆撫でする、死ぬほど退屈で嫌で嫌でたまらないものだった。
新型コロナウイルスは、自然界が生み出したものなのか。もし人間が作ったものだとするのならば、そういう火星人みたいな馬鹿には、無理やり民謡を聞かすべきである。きっと即死させることができるに違いない。
民謡は平和の音楽である。改めて桜川流域には、いや世界にも、のんびりした民謡が必要だと感じた次第である。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家)
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