【コラム・瀧田薫】大型クルーズ船の乗客乗員約3700人が横浜港で2週間、検疫のために隔離された。英フィナンシャルタイムス紙(2月20日付)によれば、売上高450億ドル(約5兆円)規模のクルーズ業界が、顧客の信頼を回復できるか否かは、ウイルスをアジア域内に抑え込めるかどうかにかかっているという。

ちなみに業界資料によれば、アジアの乗客数は2018年までの5年間で約120万人から420万人に増加し、その半数以上が中国人であったという。

この事件が露(あら)わにしたのは、「グローバリゼーションの負の側面」である。つまり「ヒト、モノ、カネ、情報」の移動とともに、細菌やウイルスも国境を越えて移動するということである。今回、日本政府はどう対応するのだろうか。WHO(世界保健機関)を中心とする国家間の協力体制を日本主導でつくれるかどうか、日本外交の正念場である。

クルーズ船旅行の大衆化

それはさておき、筆者が着目するのは、事件の舞台が英国籍の豪華クルーズ船であったことである。クルーズといえば、一昔前まで欧米のセレブ御用達の贅沢と決まっていたものだが、アジア、特に中国において、いつの間にか「クルーズの大衆化」が進行していた。

しかし残念ながら、この「クルーズの大衆化」を推進してきたのは欧米の「クルーズ業界」であって、日本の業界ではない。日本の業界は、アジアに巨大なビジネスチャンスが生まれているのに、積極的にそのトレンドに乗れていない。

最近よく耳にする「インバウンド」(外国人が日本を訪れ観光すること)という言葉にも、「受け身の姿勢」が透けて見える。外国籍のクルーズ船でやって来る外国人客を国内の観光資源にどう受け入れるかは論じても、自分たちでクルーズ船を仕立てて外国人を取り込むというような話はあまり聞こえてこない。

確かに、一部の日本企業がクルーズ船市場に参加してはいるが、先行する欧米各社と比較すると小規模だし、古いビジネスモデルに留まっている。業界資料によれば、日本のクルーズ会社は、富裕層(全体の5%)とそれに準ずる層(全体の10%)をターゲットにしているのに対し、欧米社は富裕層以外(全体の95%)をターゲットにしているという。市場の見直しを急ぐべきだろう。

クルーズ後発 日本にチャンス

ところで、今回、クルーズ船の感染症に対する脆弱性(ぜいじゃくせい)が露わになったことで、このビジネスモデルの将来について悲観的な見方が出てきている。しかし長い目で冷静に判断すれば、これは日本のような後発組にとってのチャンスである。感染症に対応できる新型クルーズ船を建造して、乗客・乗員の健康と安全の確保を前面に押し出す。その上で、日本ならではのサービスを付加価値とした、ファミリー向けの新しい観光モデルを用意する。

政府も、不健康極まるIR(カジノを中核とする統合型リゾート)などからさっさと撤退し、日本の旅行・観光業や造船業に活躍の場を用意する―そんな積極さと機敏さがあって然るべきだろう。(茨城キリスト教大学名誉教授)

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