【コラム・玉置晋】2020年1月末にちょっとした騒動がありました。2基の人工衛星が衝突するかもしれない。もし、衝突したら1万2000個以上のスペースデブリ(宇宙ごみ)が飛散した可能性があったそうです。

同様の事故は、過去に発生していて、09年、通信衛星イリジウム33とロシアのコスモス2251が衝突し、大型の破片約1000個が低地球軌道に飛散しました。これらの破片はいまだに周回しており、運用中の人工衛星に接近した場合は、これを回避しなければならないことがあります。

スペースデブリは秒速数キロ(ピストルの弾丸より高速)で飛び、徐々に地球全体を膜で覆うように拡散していきます。そして、その破片が他の宇宙物体に衝突して、さらにスペースデブリを増やしていく。このようなことを繰り返していくと、最悪のシナリオでは、地球周辺をスペースデブリの膜に覆われた人類は、地球に閉じ込められることになるでしょう。

地球を回り続けるスペースデブリ

 今回の騒動で注目したいのは、対象の人工衛星が古いことです。ひとつは、1983年に米国、英国およびオランダが共同開発した赤外線天文観測衛星「IRAS(アイラス)」で、質量1トン、大きさ4メートル×3メートル×2メートルの中型トラックぐらいの物体ですね。もうひとつは、67年に米空軍が打上げたGGSE-4です。質量85キロ、幅60センチ×長さ18メートルの巨大な物干し竿のような形状です。

ともに30~50年前に打上げられた物体で既に運用終了し、地上から制御はできない状態でした。飛行高度が地上から500キロ以内であれば、低密度ながら大気によるブレーキがかかり、おおよそ30年以内に大気圏に落下して、摩擦熱で燃えて消滅します。しかし、今回対象となった衛星は高度900キロを飛行していたため、自然に落ちてくることはありません(厳密にはいつかは落ちてきます。数千年先ですが…)。

スペースデブリの回収は人類の命題といえるでしょう。19年10月現在で、地球周辺を飛び回る物体数(10センチ以上でカタログ化されているものに限る)は1万9779個です。国別では、米国6693、CIS(旧ソ連の独立国家共同体)6635、中国4089、フランス573、日本295、インド259、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)147、その他1088です。(注1)

なお、今回の衛星衝突危機は、幸いにも「何事もなく」、通り過ぎたと発表がありました。(宇宙天気防災研究者)

注1: NASA ORBITAL DEBRIS PROGRAM OFFICE. “Orbital Debris Quarterly News”. NASA. Volume23, Issue4 November2019

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