【コラム・相澤冬樹】筑波山には、中腹の斜面の気温が麓に比べて相対的に高くなる「逆転層」のあることがよく知られている。学術的には「斜面温暖帯」といい、研究者や学生らによる冬場の観測が行われてきた。

一般に気温は上方ほど低くなり、100メートル上昇すれば温度は0.5℃から1℃下がる(気温減率)。ところが、夜間から早朝にかけてよく晴れた場合には、地表の熱が上空に向け盛んに放熱され、地表付近の気温は低下する(放射冷却)。結果として地表から高層にいくに従って気温が上昇する大気層が出現する。この大気層のことを「逆転層」と呼ぶ。

この温暖な気候を利用したのが、筑波山の西側斜面で古くから行われてきたフクレミカンの栽培。かつては日本のミカン栽培の北限に位置した。

西側斜面は正面に、関東平野越しの富士山が望めるビューポイントでもある。空気が澄んだ冬場など、富士山がよく見えるときほど、放射冷却も盛んになるから「逆転」現象も顕著になる。

今年のような暖冬気配ではどうか。つくば市沼田の知人は、「数えているわけではないが、低く雲がかかることが多く、富士山を見る日が少ない気がする」と言っていた。筑波山ケーブルカーの沿線と宮脇駅で、1月25日から2月いっぱいの会期で始まった「臘梅(ロウバイ)と福寿草」では、例年より一回り大きめの福寿草が見られたものの、気温上昇で早めに花期を終えそうだという。

そんな西側斜面、標高約250メートル付近に広がるのが筑波山梅林。涸(か)れ沢沿いの約4.5ヘクタールに筑波石とよばれる班れい岩の巨石が散在し、縫うように約1000本の白梅・紅梅が植えられている。

「今日は富士が見える」と連絡を受けた1月末の朝、梅まつりの下見を兼ねて梅林まで足を運んだ。15日から47回目を迎える筑波山梅まつりが始まる。過日の大雨のせいで、涸れ沢には豊富な水量があり、開花の早い紅梅が枝先のつぼみを膨らませていた。

最上部にある茅ふき屋根の展望あずまやまで行くと、真正面に富士を望める。梅林は関東富士見百景の1つになっていて、あずまやの手すりには「富士山まで155.6キロ」のプレートが貼ってある。「逆転層」のせいか標高の高いあずまや周辺の方が、開花のテンポが早いように感じる。

知人は「咲き始めはこんなもの。例年通り、2月下旬から3月上旬が見ごろだろう」という。

紅梅越しに遠景の富士を撮っていると、南から雲が押し寄せてきて、午前9時30分にはすっかり山容を隠してしまった。早々の店じまい。「富士を見るには朝早くに限る」ということだった。

◆第47回筑波山梅まつり 会期:2月15日(土)~3月22日(日) 会場:筑波山梅林(つくば市沼田) 主催:筑波山梅まつり実行委員会 共催:つくば市、筑波山地域ジオパーク推進協議会 問い合わせ:029-869-8333(事務局・つくば観光コンベンション協会)

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