日曜日, 12月 14, 2025
ホームスポーツ【筑波大、26年ぶりの箱根路】㊤ 伝統校復活へ 私学に迫る強化策

【筑波大、26年ぶりの箱根路】㊤ 伝統校復活へ 私学に迫る強化策

【池田充雄】筑波大学陸上競技部が、来年1月2、3日に開かれる第96回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)に、26年ぶり61回目の出場を決めた。筑波大の前身である東京高等師範学校は、箱根駅伝の創始者として知られる“いだてん”金栗四三の母校で、1920年の第1回大会の優勝校でもある。だが近年は私大勢に押され、四半世紀も出場が途絶えていた。名門復活はいかにして成し遂げられたのか。

選手を見守る弘山勉監督

大会100年の節目に復活

悲願が成就したのは10月26日の予選会。参加34校から各12人がハーフマラソンを走り、上位10人の合計タイムで競う。10位以内なら本選出場となるが、これに筑波大は6位というサプライズ。弘山勉監督は「チームを箱根に引き戻すことができた。100年目の大会での復活は感慨深い。監督という立場を超え、OBとして純粋にうれしい」と語る。

箱根駅伝への出場自体は94年の第70回大会以来だが、このときは記念大会として予選会11位まで出場枠が拡大された結果。自力で勝ち取った出場権となると、弘山監督が選手として走った89年の第65回大会にまでさかのぼる。

筑波大は2011年に「箱根駅伝復活プロジェクト」をスタート。15年に弘山監督を迎え、以来5年間で予選会の成績は毎年アップ、今回の快挙につながった。ライバルとなる私大各校とは資金力、選手力、練習量などで大きな差があったはずだが、それらをどう克服していったのか。

環境改善へクラウドファンディング

まずは資金力の問題。国公立大学では私立大のような潤沢な強化費は望みようもない。そこで16年からクラウドファンディングを開始。得られた支援金を練習のサポートや食住環境の整備に充ててきた。「予想以上の反響に驚いている。これだけ多くの人に期待されているということ。お金がないと得られない環境はあるので、うまく力に変えていきたい」と弘山監督。

一例が、選手アパートでの食事の改善だ。以前は選手が回り持ちで調理当番をしていたが、そのため練習を早上がりしなくてはならず、体のケアもままならなかった。今は夕食を管理栄養士に任せ、選手のストレスが軽減。メニューの種類やバランスも向上している。

「合宿でも20人が行くと1回で100万円からかかる。それらを補助してもらえるのは大きい。私学との環境の差はどれくらいあるか分からないが、確実に縮まっていると思う」と上迫彬岳主務。

「勉強も箱根も狙える」大学

選手力の差を縮めたのは「復活プロジェクト」の影響が大きい。箱根を本気で目指せる大学という認知が広がり、入学してくる選手のレベルも高まった。「勉強も駅伝も続けられる大学。プロジェクトに引かれ、筑波で箱根を目指そうと入学した」と話す大土手嵩主将(3年)もその一人だ。医学群の川瀬宙夢(5年)は解剖実習や病院実習をこなしながら、猿橋拓己(3年)は理工学群で都市計画を学びながら、チームの主力として箱根に挑む。

金丸逸樹(4年、諫早高)や、相馬崇史(3年、佐久長聖高)ら、高校駅伝の名門校の出身者も増えた。「箱根を走るような高いレベルを知っている選手が今の世代にはそろった。それだけに、箱根と自分たちとの距離感もよく分かっている」と上迫主務。

選手層だけでなく指導陣も手厚くなった。一昨年までは弘山監督が一人で練習から渉外、広報まで全部こなしていたが、今はアシスタントコーチらが付き、選手の状態を逐次把握している。

これらの成果が出始め、弘山監督は「今年は明らかにチャンスの年」と手応えを感じていた。1月の第95回箱根駅伝では、相馬が関東学連の一員として5区を走り、その姿を見た選手たちの間にも「ここで自分たちのタスキをつなぎたい」との機運が高まった。だが、実際に戦えるチームになるまでには、まだ大きな壁もあった。(㊦に続く)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

環境にやさしい素材で 子供たちがアート体験 つくば スタジオ’S

筑波大学で芸術などを専攻する学生に教わりながら、子供たちがさまざまなアート技法を体験するイベント「冬のキッズアート体験2025」が13日、つくば市二の宮のギャラリー「スタジオ’S」で開かれた。普段ごみとして捨てられてしまったり、リサイクル資源となる紙パックやトイレットぺーバーの芯、環境にやさしい再生紙を使った工作体験などが催された。 関彰商事(本社:筑西市・つくば市、関正樹社長)が筑波大学芸術系の協力で、9年前の2016年から毎年冬と夏に開催している。昨年からつくば市と県つくば美術館がこの企画を応援。同市とSDGsを推進する包括連携携協定が締結されていることから、環境にやさしい素材が使われるなどした。 紙パックを使った工作では、子供たちが、紙パックに布シートを貼り付けて、さらにクリスマスツリーのように飾り付けるバッグ作りに挑戦した。トイレットペーパーの芯では昆虫やコースターなどを作った。再生紙は、関彰商事の廃棄書類から作られた再生紙でクリスマスツリーに飾るオーナメントを作った。 ほかに、筆で文字を書いたりスタンプを使ったりする「オリジナル年賀状づくり」、小さな透明な容器に砂や石などを敷きミニガーデンをつくる「テラリウムづくり」など計七つのブースが設けられた。 午前、午後合わせて昨年より多い82人の小学生が参加。子供たちは二つの会場に設けられた各ブースを自由に行き来しながら、自分だけの作品を作っていた。 ちぎった和紙を台紙に貼り付けてオリジナルのクリスマスカードを作るブースでは、子供たちがちぎった和紙を接着剤で貼り付け、少しずつ形にしていく。工作時間は30分だが、10分ほどで仕上げる子もいた。 市内から参加した小学2年の女子児童は「参加したのは2回目。クリスマスツリーを作った。ていねいに教えてくれたので、思ったよりやさしかった。来年もまた来てみたい」と話していた。 テラリウムの指導にあたった同大生物資源学類2年の渡邊奏和さんは「自分は芸術専攻ではないが参加した。子供たちにどう伝わるかわからないこともあるが、子供が好きなので教えるのは楽しい」と感想を話した。(榎田智司)

サイエンス高校と筑波高校の魅力《竹林亭日乗》35

【コラム・片岡英明】文科省は11月、今年度補正予算に公立高校の魅力向上のために約3000億円の基金を設置すると発表した。この予算が成立すれば、学費無償化を含め、公立学校の魅力アップ策も導入されることが期待できる。こうした動きも念頭に置き、今回は県立のつくばサイエンス高校と筑波高校の学校づくりについて考えたい。 サイエンス高:探求重視の進学校 2022年まで4学級だったつくば工科高は、23年から科学技術科6学級で構成されるサイエンス高校となった。しかし、初年度の入学者は88人(つくば市内からは53人)、24年は77人(同53人)であった。そこで県は、「普通科を!」の声を受けとめ、学級編成を変更し、25年から6学級中3学級を普通科にした。すると、市内からの入学者は111人に激増し、全体の入学者も178人(つくば工科時代の22年は134人)に増えた。 24年→25年の中学別入学者数を見ると、並木中:1人→10人、谷田部中:5人→25人、谷田部東中:8人→21人、みどりの中:8人→12人など、地元の入学者が増え、県立高改革が軌道に乗り始めた。 その理由としては、ノーベル賞受賞の小林誠さんが名誉校長であること、4名の外国語指導助手(ALT)などスタッフや設備が充実していることが挙げられるが、私が注目しているのは教育課程である。どの教科を、いつ、どれだけ学ぶかは学校教育の要だからだ。 進学校には、2年生から文・理を分ける受験重視の土浦二高・牛久栄進高型と、1・2年は基本共通科目とし教養を重視する土浦一高・水戸一高型がある。サイエンス高は最初から文・理融合をモットーに教養重視型で、この大きな「構え」に設立当初のスタッフの深い理念が感じられる。 リニューアル開学3年目に学校見学させてもらったところ、学校も一新され、生徒が楽しく学んでいた。職員室前には、山形大工学部をはじめ10数人の大学合格者が掲示されていた。話を聞きながら、今後、京都市の堀川高校や千葉県の市川学園が参考になるのではないかと思った。 筑波高:地域と連携した多面校 小規模校の魅力アップは茨城県の重要な課題である。その点、地域との連携に踏み出した筑波高の学校づくりは注目に値する。改革2年目の進学コースの様子に関心を持ってお話を聞いたところ、少人数での学習だけでなく、進学コースのまとまりや意識も高まってきたという。今後が楽しみである。 先日、筑波高も参加している地元北条の「祭り」を見学した折、生徒の「学校が楽しい」との言葉を聞いた。小田城址で開かれたジャズフェスでのスタッフ活動や、老人ホーム訪問後、「次はあの老人をどうすれば笑顔にできるか」と工夫する取組みなど、フィールドを持つ学びの可能性を感じた。話を聞きながら、校内の川の清掃やヤギを飼うなど、幅広い学びのある武蔵高校・中学が参考になるかなと思った。 茨城の学校づくりのモデルに 筑波高は、保護者も卒業生という生徒が多く、地元とのつながりが深い。また、歴史あるサイエンス高は、地元中学の期待が大きい。地域の応援を受け、この2高が茨城の学校づくりのモデルになるよう期待している。(元高校教師、つくば市の小中学生の高校進学を考える会代表)

小美玉市にある「ぺんてる」の主力工場《日本一の湖のほとりにある街の話》35

【コラム・若田部哲】土浦市教育委員会に配属されて十年余り。児童の絵画コンクールなどにも関わる中で、近年、絵に親しむ子供が減っているという現実を痛感しています。背景には、娯楽の多様化や、カリキュラム・習い事の忙しさといった子供側の事情に加え、正解のない芸術を教える難しさという、大人側の都合もあるのかもしれません。加えて、当世を席巻する「タイパ・コスパ」志向とこの分野の相性の悪さも、無関係ではないでしょう。 しかし、自らのさまざまな感情を、絵の具をはじめとする多様な媒体に託して表現するという営みは、ラスコーやアルタミラの壁画を持ち出すまでもなく、極めて普遍的で、人間の根源的な喜びに満ちています。そうした「表現」の衰退を、寂しく思いつつ眺めていました。 今回は、その「表現の力」を支える現場のひとつ、小美玉市のぺんてる小美玉工場を、同社研究開発本部長の名須川さんに案内していただきました。クレヨンでおなじみの「ぺんてる」。多様な文房具を通して日本の教育を支えてきた同社の国内最大の生産拠点が、1964年に稼働を開始したこの工場です。 現在まで続くベストセラー、サインペンの生産拠点として、東京ドーム1.5個分の敷地に設立された工場では、創業当初、100人で1日1万本を製造していたところ、現在ではわずか2人で1日6万本を生産しているとのこと。サインペンに加え、ボールペンやクレヨンなど主力製品の多くが、ここで作られています。 文房具でも画材でもなく「表現具」 最初に案内されたのは、ロングセラーであるサインペンの製造ライン。1980年代製の武骨な組立機はいまも現役で稼働し、流れるような動きで次々と製品を生み出していました。隣の最新式ボールペン「エナージェル」のラインには、自社開発の組立機が整然と並び、部品が驚くほどの速さで形になっていきます。こうした機械の多くを自社内で作っている点も、同社の大きな強みだといいます。 続いて向かったのは、クレヨンの製造現場。顔料と油が混じった独特の香りが満ち、美術を学んでいた学生の頃の記憶がふとよみがえりました。3台の大きな円盤状の装置が止まることなく回転し、そのたびに1本1本、クレヨンが生まれていきます。 ドロドロに溶けたクレヨンの原料が型に下から注ぎ込まれ、一周する間に冷えて固まり落ちてくる様に、思わず目はくぎ付けに。色を切り替える際には機械を徹底的に洗浄する必要があるため、同じ色を1〜2日かけて作り続けるのだといいます。さらに、色を製造する順番も厳密に決められており、約12日で12色が一巡する仕組みになっているとのこと。こうして、ベストセラーの「ぺんてるくれよん12色セット」の出来上がりです。 最新機器と歴史ある重厚な機械が並び立つ空間で、人の感情を伝えるための多彩な道具が今日も生まれ続けています。「これからも『表現の力』を信じて、文房具でも画材でもなく、『表現具』を作り続けていきます」。穏やかにそう語る名須川さんの表情に、これからも表現の灯が消えることはないという、確かな希望を感じた取材でした。(土浦市職員) <注> 本コラムは周長日本一の湖、霞ヶ浦と筑波山周辺の様々な魅力を伝えるものです。 ⇒これまで紹介した場所はこちら

サンタにふんし ごみ拾い TX万博記念公園駅周辺で障害者ら

クリスマスを前に、サンタクロースにふんした知的障害者らが12日、つくばエクスプレス(TX)万博記念公園駅周辺でごみ拾いをした。 同駅近くに立地する障害者の就労支援施設「さくら学園」(NPO明豊会運営、飯島喜代志代表)に通所する障害者ら約25人で、障害者を知ってもらい地域とのつながりをつくろうと、7年前の2018年12月から毎月1回、同駅周辺でごみ拾いを続けている。 この日はクリスマスシーズンにちなんで、赤い上着とズボンを着用、赤い帽子をかぶり、白いひげを付けて駅周辺を歩きながら清掃。TX高架下の生け垣、駅前のバス停、空き地、マンションの生け垣などに落ちていたビニール袋、ティシュペーパー、たばこの空き箱、紙コップ、空き缶などを拾い集めた。 守谷市から通所する高田建太さん(20)は「順調にきれいになった」と話し、つくば市内から通所する山下靖紘さん(34)は「楽しい」などと話していた。12日は強風注意報が出され、つくば市は最大風速7メートルと強風だったため、通常の半分のコースの約500メートルを、20分ほどかけて歩いた。 さくら学園広報の鈴木芽未さんは「障害者が外に出ることは大事。どんな人が通っているか地域に知ってもらい、地域との接点になれば」と話していた。 同施設にはつくば市内のほか周辺市町村から約30人の知的障害者や精神障害者、身体障害者らが通っている。ゴムのバリ取りなど会社から受注を受けた作業のほか、不要のパソコンを回収し希少金属をリサイクルする作業(2024年1月24日付)、機織り機を使った手織り、オリジナルトートバッグの製作(22年3月26日付)など、独自にさまざまな作業に取り組んでいる。(鈴木宏子)