【コラム・古家晴美】秋から初冬にかけては、旬を迎える食べものが沢山ありますが、今回はあえて季節はずれの食べものについてご紹介します。

現在は加工技術が進み、多くの食材が冷凍・真空パック、フリーズドライなどで、いつでも入手できます。ビニールパック入りの輸入物の水煮のタケノコを店頭でよく見かけますが、県南でタケノコ(孟宗竹=もうそうちく)が採れるのは4~5月ごろです。阿見町大室では、タケノコを今でも塩漬け保存し、活用している方がいらっしゃいます。

塩漬けには、手間がかかります。皮をむいたタケノコを茹(ゆ)で、塩をまぶして重石(おもし)を載せ、水分を出します。最初は毎日、塩をまぶし直し、タケノコから出てくる水分が少なくなってきたら、日にちの間隔を空け、完全に水が出なくなるまで10回ほど繰り返します。そうすると写真のように平たく潰(つぶ)れます。

それをさらに本漬けします。桶に塩と、塩をまぶしタケノコを交互に敷き詰め、一番上は密封し、重石を載せます。食べる時に水につけて塩抜きすると、タケノコは膨らんで大きくなります。これをうま煮やレンコン、しいたけ、人参と混ぜご飯などにします。薄切りにして甘辛く炒め、最後にごま油で香り付けたメンマ風に仕上げるとお孫さんも喜んでお弁当に持って行くとのこと。

夏に収穫されたキュウリは、同様に仮漬けしてから、塩ぐるみにしてトウガラシをたっぷり入れ本漬けすると1年は持ちます。冬になって人が集まる時には、塩抜きしてから少しの酢と調味料で軽く煮て、お茶請けに持って行くそうです。

収穫物を無駄にせず使いまわす

また晩夏に採れる赤じその実はざるにあけ、上から大量の塩を振る「ざる漬け」にし、完全に水分を抜くと常温保存できます。これをご飯や漬物に散らし香りを楽しみます。ちなみに、青じその葉はよく使われますが、実は大きすぎて食感もよくないことから塩漬けには不向きのため、もっぱら赤じその実が使われます。

冷蔵庫がない時代でも、保存食の知恵、そして何よりも「手間」によって、これだけ多様な食材を楽しむことができました。「他に食べるものも冷蔵庫もなかったから、必要に迫られ仕方なかったのよ」とおっしゃいます。

確かにそのような事情があったでしょう。また、季節はずれのものを食べる楽しみもあったでしょう。しかし、正直なところ、保存食に想像以上の多くの手間がかけられてきたことに圧倒されます。保存食とは、そもそも大量に収穫されたものを無駄にせず、使いまわしていくために工夫されたものです。

食べる必要、楽しみと共に、大切に育て収穫された食材を無駄にしたくないと言う食べものへの思いが、ここまで手間のかかる作業の後押しをしたのではないか、と思うのは私だけでしょうか。(筑波学院大学教授)

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