【コラム・浦本弘海】「もしもし、弘海くん、この間はありがとう。隣家の木の枝が伸びてきて困っていたんだけど、民法の条文を出して交渉したら、しぶしぶだけど切ってくれたよ」

「それはよかったです!」

以前コラム(8月20日掲載)で紹介した、相談に乗った遠縁の親戚からの結果報告、感謝してもらえるのはうれしい限りです。

「ところで、また少し聞きたいことがあるんだけど」

コラムのネタに困っている状況では天の助け、聞くほうにも力が入ります。

「ほうほう、それで聞きたいことというのは?」

「それがね――」

どうやら隣家の木(越境はしていない)が台風で倒れ、家の一部が損壊してしまったようです。

土地の工作物等の占有者及び所有者の責任

まず、民法の条文を紹介します。

(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)

  • 717条1項 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵(かし)があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
  • 717条2項 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
  • 717条3項 前2項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

民法717条は、土地の工作物等の占有者や所有者の責任を定めたルールです。ちなみに「占有」というのは大まかに言えば物を所持(支配)することです。

今回のケースは隣家の木が倒れてきたため、(竹や木について定めた)717条2項が問題となります。

そして、717条2項が適用になるか否かは「栽植又は支持に瑕疵がある」かどうかにかかっています。

台風のような天災はお互い様

被害を受けた側からすれば、損害分のお金をもらうのは当然という気がします。一方で、逆の立場からすれば、台風のような天災はお互い様で、お金を払う必要はないと考えても不思議はありません。

この点、民法は「瑕疵」で調整を図っています。つまり「栽植又は支持に瑕疵」があれば法的責任を負いますが、なければ法的責任を負いません。

ここで「瑕疵」というのは、大まかに言えば物が通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性のある状態です。

したがいまして、生育に問題がなかった木が記録的な風速により倒れたような場合は、不可抗力であって木が通常有すべき安全性を欠いていたとはいえず、「瑕疵」はないと判断されやすいです(結局、損害分のお金は隣家からもらえません)。

逆に、たとえば木が枯死していたり折れかけていたような場合は、木が通常有すべき安全性を欠いていたとして、「瑕疵」があったと認められやすいです(損害分のお金が隣家からもらえます)。

台風の多いシーズンです。みなさま安全には十分ご注意ください。(弁護士)

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