【コラム・先﨑千尋】「人々は困窮し、死に瀕(ひん)し、生態系は壊れる。私たちは絶滅を前にしている。なのに、あなた方はお金と、永続的経済成長という『おとぎ話』を語っている。よくもそんなことができる」。目に涙を浮かべ、怒りで小さな体を震わせる三つ編みをさげた少女の叫びを、私は民放のテレビで感激しながら聞いた。先月23日にニューヨークの国連本部で開かれた気候行動サミットでの、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(16)の演説だ。「よくも(How dare you)」は4回繰り返された。

彼女は昨年8月、気候変動の危機が迫っているのに誰も行動を起こさないことに我慢ができなくなり、学校を休んで、たった1人で温室効果ガスの削減を求め、国会前で座り込みを始めた。その後も「学校ストライキ」は毎週続けられ、SNSで拡散され、先月20日の抗議行動は同世代の若者の共感を集め、世界で400万人以上が参加、その週だけで130カ国、660万人に達した。

「私はここに立っているべきではない。海の反対側で学校に戻っているべきだ。あなたたちは空っぽの言葉で、私の夢と子供時代を奪った」「あなたたちには失望した。しかし若者たちはあなたたちの裏切り行為に気づき始めている。すべての未来世代の目はあなたたちに注がれている。私たちを失望させる選択をすれば、決して許さない。あなたたちを逃がさない」

1人で立ち上がったグレタさん

グレタさんの4分余のスピーチは、あいまいさを残さないで、私たちの胸にグサリと突き刺さる。しかし、批判を浴びせられた首脳の反応は冷ややかだ。アメリカのトランプ大統領は、会場に姿を見せたものの彼女の演説は聞かずに、「明るく素晴らしい未来を夢見る、とても幸せな少女のようだ。見られてよかったよ」とツイッターで皮肉っている。

ロシアのプーチン大統領も「優しいが、情報に乏しい若者」と批判している。わが国でも、「16歳の考えに世界が振り回されたらダメだ」(橋下徹元大阪市長)、「洗脳された子供」(作家の百田尚樹さん)などの発言が相次いでいる。ネットでも、「小娘」「お姉ちゃん」などの見下した表現や侮蔑した言葉が並んでいるという(「アエラ」10月7日号)。

私は、グレタさんの国連でのスピーチは、世界の要人が集まってもいつまでたっても何の進展もない現状に対する、まともな怒りをぶつけたものだと考えている。しかし、その怒りを感じ取れない、未来のことを考えない、品性のない大人たちが政治や経済の世界を仕切っており、危機に瀕している気候変動対策は遅々として進まない。

それでもだ。わずか1年前に1人で立ち上がったグレタさんが国際会議に呼ばれたことは、「行動からしか変化は生まれない。1人1人が行動すれば世界をも変えられる」ということを私たち大人世代の人たちに示しているのではないか。2014年ノーベル平和賞を受賞したパキスタンのマララ・ユスフザイさん、昨年の沖縄県全戦没者追悼式で平和を訴えた沖縄の相良倫子さん(当時中学3年)の詩の朗読を思い起こす。(元瓜連町長)

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