【相澤冬樹】東海村にあるJ-PARCセンター(齋藤直人センター長)の10周年記念行事が23日、つくば市竹園のつくば国際会議場で始まった。初日の市民公開講座は「宇宙・物質・生命の起源を求めて」をテーマに、現在の最先端科学を紹介する5講演が行われた。科学コメンテーターとして人気の講師の登場で、冒頭から立ち見が出るほどの盛況となった。
人気を集めたのは、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構初代機構長で、米国カリフォルニア大学バークレー校教授の村山斉さん(55)。宇宙の成り立ちに迫る研究を第一線で指揮しているが、「私たちはどこからきたか」というヒトの成り立ちとからめて、分かりやすく説明する著作や話術が受けている。この日も主催者によれば、県内外から330人もの聴講者が会場を埋めた。
講演で村山さんは①約138億年前ビッグバンが起きたとき、誕生した宇宙には水素とヘリウムしか元素がなかった②それ以上重い炭素や窒素、鉄までの物質は星のなかで生成され超新星爆発で宇宙空間にばらまかれた③さらに重い金やプラチナなどは中性子星合体という現象で作られた―ことが最近の重力波の観測などから分かってきたとステップを踏んで解説した。
ここで、よく分かっていないのは、この宇宙はなぜ物質が優位なのかということ。宇宙創成の段階では物質と反物質が同量だけつくられたはずだが、膨大なエネルギーを生み出す対消滅の後、なぜか物質だけが残った。反物質の10億分の1が物質に入れ替わった形になっている。これを「CP対称性の破れ」で説明するのがノーベル物理学賞研究、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の小林誠教授らによる小林・益川理論だった。
ところが最近の精度を上げた研究により、同理論では物質の存在量のすべてを説明できないのが分かってきた。このためKEKの最新加速器、スーパーKEKB(ケックビー)を使った検証(Belle II実験)が始まった。村山さんによれば「米国スタンフォード(SLAC)に勝って、今や世界で最も反物質を作り出している場所となった。反物質こそがつくばの特産物だ」と紹介した。
80年代に稼働したつくばの陽子加速器を今日受け継ぐのがJ-PARCの大強度陽子加速器。ここでは加速した陽子をターゲットに当て、中性子やニュートリノ、ミュオンを生み出し、さまざまな実験に使っている。なかでも岐阜県神岡にある検出器、スーパーカミオカンデにニュートリノを打ち込む「T2K実験」で知られる。「ここでは毎秒300兆個ものニュートリノを生成するよう増強中で、これが実現すれば世界一。ニュートリノが東海村の特産になる」と語り、会場を沸かせた。
スーパーカミオカンデのニュートリノについては、2015年にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章さん(東京大学宇宙線研究所長)がこの日の午後の講演に登場、関心を集めた。
J-PARCは高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構 (JAEA)が共同で設置し、運営する研究施設。施設を構成する物質・生命科学実験施設 (MLF)、ニュートリノ、ハドロンの主要実験施設がそろい、2009年末までに供用を開始した。
10周年記念式典は24日、同会議場で行われる。同時開催は第3回J-PARC国際シンポジウムで、26日まで。パネルディスカッション「社会における科学の役割、世界における日本の役割」はじめ各種セッションが予定されている。
➡J-PARCの過去記事はこちら
➡Belle II実験の過去記事はこちら