【相澤冬樹】高エネルギー加速器研究機構(つくば市大穂、山内正則機構長)は11日、小林誠、益川敏英両博士のノーベル物理学賞受賞に結びつく成果を残した加速器、KEKB(ケックビー)の後継機であるSuper(スーパー)KEKBを再始動、Belle(ベル)Ⅱ実験は新たなステップ「フェイズ3」に突入した。
同実験は26の国と地域から900人を超す研究者が参加する国際共同実験。地下11メートルに周長約3キロの衝突型加速器が設置されており、電荷の異なる電子・陽電子をそれぞれ7GeV(ギガ電子ボルト、1GeVは10億電子ボルト)、4Gevのエネルギーで加速し、正面衝突させる。このときB中間子・反B中間子が対で生成され、短時間で崩壊するが、その模様は衝突地点に設けられた検出装置BelleⅡで追跡される。
この衝突エネルギーは、欧州原子核研究機構(CERN)の LHC加速器に比べると小さいものの、大量の衝突反応データ生成によってカバーする。ルミノシティ(衝突頻度)重視の設計という。陽子・反陽子衝突のLHCに比べ、電子・陽電子衝突はバックグラウンドで騒がしい存在となる余計な素粒子を生成しないため、B中間子崩壊の追跡を容易にする。
2010年から大改造に着手されたSuperKEKBは、16年の試運転の「フェイズ1」、18年に初衝突を記録した「フェイズ2」と準備・調整を進めてきた。昨年7月以来の再起動となるフェイズ3では、KEKBが持つルミノシティの世界最高記録を40倍にまで高める計画。11日午後1時すぎ、制御室で始動のキーが入った。調整運転の後、ビームは衝突型の円形加速器に入射される。この先、断続的に運転を続け、早ければ1年後にはルミノシティの目標数値をたたき出したい構えでいる。
B中間子崩壊から新物理探求
ビームを待つBelleⅡ側ではフェイズ2後に、バーテックス検出器(VXD、崩壊点検出器)が取り付けられた。B中間子が崩壊した場所を測定するための検出器で、時間経過を追って観測できるのが特色。今後数年かけてBelle実験の約50倍のデータ量を蓄積し、精度を高める。「小林・益川理論」の新たな証明ばかりか、標準理論の発展型に至る道筋が見つかるかもしれない。
KEK素粒子原子核研究所、中尾幹彦教授は、BelleⅡ実験では宇宙初期に隠された新しい物理法則の発見が期待されるという。「たとえば宇宙のダークマター(暗黒物質)探しでは、これまでアクシオンのような極めて小さい質量の領域か、極めて質量の重い超対称性粒子(SUSY粒子)が候補になってきたが、案外中間領域は調べられていなかった。BelleⅡで測定可能な質量かもしれない」と狙いの一端を語った。