【コラム・斉藤裕之】実は先日買っちゃいました。重量60キロ、黒いタイル張りの「か・ま・ど」。「へっつい」とか「おくどさん」なんて呼ばれることもあり、薪(まき)で煮炊(にた)きをするあれです。ある街の道具屋で一目惚(ぼ)れ。

さて、地球上で米がとれるところは米を食べます。とれないところは小麦やトウモロコシを、それもとれない場所ではジャガイモを食べます。要するに米は最強の主食。フランスにいたころ、パリで食べるパンは本当に美味しいのですが、日本から持参した圧力鍋でヨーロッパ産の米を毎日炊いていました。因(ちな)みに、フランスやイタリアでも米を作っています。

そして、日本人のお米愛は相当なもの。より美味しいお米を求めて日夜品種改良に励み、またそれを美味しく炊き上げることへの執念は、炊飯器のテレビのコマーシャルなどでも明らか。事実、ある時から炊飯器は白くて丸い牧歌的なデザインから、メタリックな近未来的デザインに。そして、IHとか〇〇釜仕上げだの〇〇炎炊きだののうたい文句で、今や高級家電。

ところで、先日しばらくぶりに買った本。米の炊き方に関する話。これまで何十年も米を炊いてきたわけですが、米の研(と)ぎ方から膨潤(ぼうじゅん)の時間、火加減や鍋、釜の種類など、世の中には様々な「俺流」があるようです。しかしこの本は言い切ります。「米の炊き方を変えると人生までもが変わる」と。そこまでおっしゃるのならばと、本に記載されている手順通りに米を炊いてみましょう。

かまどで新米!

使うのは直径18センチの厚手の金属鍋。指定された量の米と膨潤時間、クッキングタイマーによる分刻みの火力調節! 結果、これが抜群に美味い。「お米をよく噛みなさい!」と言われずとも、よく噛まざるを得ない絶妙な弾力。固いのとは違います。それ以来ずっと、我が家ではこの方法でお米を炊いております。おまけに、この方法で炊いたご飯は冷めても美味しい。

実は、数学の公式が苦手。今残っている文化や方法は誰かが考え、受け継ぎ、改良してきたもの。偶然の産物もあるとはいえ、それらは科学的に合理的に導かれたかたち。料理はまさにその代表的なものだと思うのですが、マナーやしきたり、発酵や醸造、刃物の研ぎ方など、よく考えれば実に科学的であり合理的。

この本に書かれていることも、実は長い経験と科学的な思考を根拠にして持論を展開しています。因みに私の経験からいうと、「はじめぱっぱ、なかちょろちょろ」が炊飯の火加減の基本。

後日、美味しいご飯を食べるための最後の必須アイテム、さわら(ヒノキの仲間)のおひつ(科学的に言うと炊きあがった米の余計な水分を調節する容器)を、千葉の佐原で買い求めた私をかみさんは静観。さて稲刈りが始まりました。かまどで新米!(画家)

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