【コラム・古家晴美】霞ケ浦の代表的な魚といえば、まず初めに挙げられるのがワカサギです。茨城県では禁漁期間を除いた7~12月を中心に漁を行っています。シシャモと同じキュウリウオ科の体長約15センチの淡水魚で、寿命は約1年、1~2月に水深1メートルの砂地に産卵します。霞ケ浦名産の焼きワカサギは、3代将軍家光に献上されて以降、江戸時代を通して公儀御用(こうぎごよう)魚とされたので、「公魚」の字があてられました。
現在のワカサギは、小型機船を使用した1人で操業する底曳網(そこびきあみ=トロール網)か、定置網(ていちあみ)で漁獲されています。しかし、昭和30年代までは、このような小規模な漁と同時に、大規模な漁も行われていました。江戸時代に考案された「大徳網(だいとくあみ)」と言う網の長さが1000メートルに及ぶ大型の網を使用し、網元を中心に曳(ひ)き子が30~40人雇われ、行われていたのです。
夕方になると、これらの曳き子たちを乗せた船は、漁場(対岸の場合もありました)まで行き、その領域を網で取り囲みました。ワカサギ漁は夜間操業なので、地曳き(じびき、湖岸から網を曳き寄せる)あるいは船曳き(ふなびき=沖曳き:船から網を曳き寄せる)で、1回3時間かけて、1晩に3回網を曳き揚げ、早朝に戻ってきたと言います。
漁から戻り陸揚げされたワカサギを選別するのは、非常に手間のかかる作業で、女性が担当しました。小さいワカサギを塩茹(しおゆ)でし、天日(てんぴ)で干しますが、雨に当たると商品としての価値が落ちてしまうので、急な雨の時は総出で取り込まねばなりませんでした。
煮干し 焼きワカサギ 焼き浸し…
ご存知のように、ワカサギの「煮干(にぼ)し」は、ご飯のおかずやおやつ、おつまみなどの食用が中心で、カタクチイワシ煮干しのようにダシ汁を取ることが主な目的ではありません。冷蔵設備が整い、塩分控えめの健康志向が強くなってきてからは、現在のようなソフトなタイプの要冷蔵品となりましたが、それ以前は、日持ちがするように、より塩分濃度が高い乾燥させた煮干しが製造されていました。
日常、食卓に上るのは、このような煮干しに醤油をかけたものが中心で、このほかに、大きめのワカサギを数尾並べて串刺(くしざ)し・生干(なまぼ)しにしたものを焼いた「焼きワカサギ」が冬のご馳走でした。さらに、これを昆布巻きの芯(しん)にしたり、乾燥させてダシを取ることもあったとのことです。また、天ぷらや焼いてから煮る焼き浸(びた)し、醤油の煮つけ、夏には骨を抜いた生のものを泥酢(どろず)につけて食べました。
漁家では、煮干しを作る際に、ゆで汁に浮いて来たワカサギ油を採って揚げ物などに使ったり、農家の野菜と物々交換しましたが、魚臭いということで、あまり評判は良くなかったようです。(筑波学院大学教授)
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