【コラム・浦本弘海】
「先生、事件です!」
「なんだね、スタビンズ君」
「ぼくはスタビンズ君じゃありませんし、先生もドリトル先生ってガラじゃないでしょ!」
「それで金の匂いはする事件かな?」
「…………」
「ほら、じ、事務所の経営もあってね、オホン。で、事件とは?」
「放置自動車です」
「放置自動車、か……」
放置自動車はやっかいだ。法律論としては難しくないし、裁判になったとしても勝つのは比較的容易だ。ただ、適法に対処するのは骨が折れる。
最初にすることは警察への連絡・相談。ただ警察は犯罪が関与しているときでないと、なかなか動いてくれない。警察が動いてくれないケースでは、原則的に被害者が自分で対応することになる。
対応としては、放置者が自主的に移動することを期待し、移動を促す貼紙などをすることが考えられる。後日のトラブルに備え写真を撮っておくとよい。
それと並行し、放置自動車がゴミ(捨てられた物)かどうかを検討する。ゴミと判断できれば、放置自動車を無主物(民法239条)として自己の所有物とし、その上で自分の物として廃棄することが考えられる。
ゴミか否かの判断はやさしくないが、この点は大阪府放置自動車の適正な処理に関する条例の基準(⇒pdfファイル)が非常に参考となる。
ゴミとして廃棄するのであれば、やはりトラブルに備えて放置自動車の撮影など記録化は十分しておくべきだし、貼紙などでたとえば「3週間以内に移動しないと廃棄する」旨の告知をした方がよい。
だいたいが迷惑のかけられ損
また運輸局等(軽自動車は軽自動車検査協会)に確認すれば、所有者・使用者の情報が得られる(警察で所有者が確認できる場合もある)。
ローンの残っている自動車などで所有者がディーラー等の場合は、自主的に撤去してくれることもある。
やっかいなのがゴミと判断できないケースで、所有者・使用者に連絡しても無反応のときだ。最終的には訴訟を提起して(相手がそれでも何もしなければ)強制執行することになる。
強制執行をするには時間も費用もかかる(数カ月・数十万円)。もちろん損害賠償請求は可能だが、相手に差し押さえるだけの資産があるかというと……。率直に言えば、放置自動車は迷惑のかけられ損であることが多い。さて、この事実をどう受け入れてもらったものか。
「それで依頼人は相談をご希望かな」
「依頼人?」
「そう、依頼人。まさか動物じゃあるまい? そういえばアマミノクロウサギが原告になった訴訟があったな……。うちの事務所も閑古鳥が鳴いているし、いっそ動物専門の事務所にするか!」(ヤケ)
「先生…… 依頼人も動物の依頼者さんもいません」
「いない?」
「置かれているのは…… うちの駐車場です!」(弁護士)
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