日曜日, 12月 22, 2024
ホームつくば「装具難民なくしたい」 つくばの2社が福祉機器情報管理システムを共同開発

「装具難民なくしたい」 つくばの2社が福祉機器情報管理システムを共同開発

【鈴木宏子】「装具難民」をなくしたいと、つくば市の義肢装具メーカー、幸和義肢研究所(同市大白硲、横張和寿社長)とソフトウェア開発会社、ペンギンシステム(同市千現、仁衡琢磨社長)が、福祉機器のトレーサビリティー(履歴管理)システムを共同開発した。車いすや義足などの耐用年数や、不具合が起こったときの修理方法などがQRコードで分かり、利用者と製造会社などが情報を共有して、いつでも適切なサポートを受けることができる。

車いすや義足、杖などの福祉機器を使い始めても、その後、壊れたり、耐用年数を超えたり、体の状態が変化して合わなくなることがある。福祉機器は使う人によって一つひとつ異なるため、それぞれに応じた適正なサポートが必要だが、使って数年が経過し、利用者が、いつ、どこで、だれが作ったかが分からなくなると、正しいサポートを受けられない場合があるという。高齢者社会が進行し福祉機器を使う人が増える中、福祉機器が壊れたまま自宅で埃をかぶっていたり、合わないのに使い続けたりしている状況が「装具難民」として医療や福祉の分野で問題になっている背景があるという。

QRコードによるトレーサビリティーシステムは、利用者と、福祉機器製作会社、医療・介護関係者などが常に情報を共有して、利用者が正しいサポートを受けられるようにしようと開発された。「ぽーさぽーと」という商品名で、QRコードを車いすなどに貼り付け、読み取れば、ウェブサイトに保管してある、処方した病院、福祉機器を製造した会社、製造日、型式、目的や効果、仕様、耐用年数などの情報がすぐに分かる仕組みだ。

同システムは、市内中小企業の技術マッチングを応援しようとつくば市が7月に開始した「提携締結・協業成果情報発信事業」の第1号に選ばれた。今後、市が関係する技術展示会などで展示してもらいPRするという。

さらに両社は、13~14日に仙台市で開かれる第35回日本義肢装具学会学術大会で発表するほか、10月に神戸市で開かれる第17回国際義肢装具協会世界大会にも参加し、国内だけでなく海外展開もしていく方針だ。

開発したシステムは今後、幸和義肢研究所が福祉機器製造会社を対象に販売する。導入費用は製造会社に負担してもらい、利用者には経済的負担がないようにする。価格は、QRコードラベルを発行する「ぽーさぽーとアプリ」などを導入する初期費用が15万円、月額利用料は1万6000円。システムを導入すれば、製作会社は何件でも製品情報を登録し、QRコードを発行できる。製品の情報や操作履歴は自社で管理できる。

幸和義肢研究所の横張巧副社長は「今まで関東しか営業エリアがなかったが、このシステムで国内だけでなく世界に商品提供できる企業に成長していけたら」と述べ、ペンギンシステムの仁衡社長は「つくばの2社が世界に旋風を巻き起こすことができたら」と話している。

◆問い合わせは電話029-875-7627(幸和義肢研究所内ぽーさぽーとプロジェクト)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img
spot_img

最近のコメント

最新記事

野山に消えた子たち 「ひきこもり」その5《看取り医者は見た!》32

【コラム・平野国美】今風に言えば「ひきこもり」とか「不登校」と呼ばれるであろう子供たち。通学路から外れ野山に消えていった子供たち(12月6日掲載)。元気であれば齢90前後になる彼らの人生はその後どうなったのか? 就職はできたのか? 社会からドロップアウトした状態で過ごしたのか? 私の患者さんの話は意外でした。「当時、貧しさが理由で学校に通えなかった子が多くいました。そうでなく、勉強が嫌いなのか、みんなと群れるのが苦手なのか、野山に消えて行く子が、私の周りに3名ほどいました。3人とも普通に大人になり、うち2人は社長になりました」 私には「不登校」「ひきこもり」と「社長」に違和感がありましたが、この患者さんの話には驚きました。 「社長と言っても、株式を上場するような一流会社じゃないですよ。家族経営の土木や建築会社を立ち上げ、自分も現場に出て朝から晩まで働き、いつの間にか仲間を増やし、会社の看板を掲げていた。あの2人は頑張ったんだ」 なりふり構わず働く姿は想像できました。しかし疑問も湧きました。「小さい会社でも帳簿付けなどの能力が必要と思うのですが、学校に行かないことで読み書きや計算にハンディがあるのに、独学で何とかしたのでしょうか」 私の患者さんは笑いながら、「いや、2人とも読み書きはできなかったな。親戚の人や妻が事務的なところはやっていた。彼らは肉体的に働いていた。見ていてすがすがしかった」 みんな、呼んでくれてありがとう 患者さんは話を続けます。「70歳のとき同窓会を開いたんです。1人は欠席でしたが、もう1人は黒塗りの運転手付きの高級車でやって来ました。会の中で、1人ずつ近況を報告する時間がありました。彼は決して偉ぶる感じもなく、子供のころの表情で、みんなの前で話そうとするのですが、うまく話せないんですよ。口下手でね」 「やっと出た言葉、『オレ、学校にほとんど行ってないのに、みんな、呼んでくれてありがとう』と言うのが精一杯なんですよ。恥ずかしそうにしているから、そばに行って、お前、頑張ったなって肩をたたいてやったら、泣いて喜んでいた」 私の友人でも、彼らのその後を聞くと、意外な活躍をしている人がいます。バランスよく規格にはめようとすると、外れてしまう子供もいるのです。患者さんから聞いた規格外の人たちの生き方を見ていると、興味深いものがあります。(訪問診療医師)

墳丘の輪郭を探る 土浦 常名天神山古墳から大量の埴輪片

土浦市常名(ひたな)の市指定史跡、常名天神山古墳で21日、発掘調査に当たった筑波大学考古学研究室の滝沢誠教授らによる現地説明会が行われた。壺型埴輪(つぼがたはにわ)の破片とみられる土器(須恵器)が大量に出土、前期古墳としての築造年代をより詳しく検討できることとなった。 前方後円墳の姿変わって再測量から 調査は同研究室と同市上高津貝塚ふるさと歴史の広場の共同で、2023年度から行われた。 墳丘の長さが70メートルから75メートルの前方後円墳。古墳時代前期、4世紀ごろの前方後円墳と見られていたが、後世になって墳丘の上に土砂が堆積し、地元常名神社の神域として手が加えられたりしたため、元来の輪郭が不明確になっていた。 西側「前方」部には宝篋(ほうきょう)印塔が据えられ、市指定工芸品にもなっているが、東側「後円」部の墳丘上に鎮座していた神社本殿は23年5月の火災で焼失した。 23年度の調査は古墳周りにトレンチ(溝)を数本掘っての再測量からスタートした。24年度は新たに6本のトレンチを掘って、地層や土砂の地質から墳丘の輪郭や傾斜を割り出す発掘作業が行われた。 考古学研究室の学生らが実習の一環として取り組んだ。トレンチは幅1メートル、長さが4~6.5メートル。在来の関東ローム層や常総粘土の地層が出てくるまで垂直に掘り進める作業だ。 その結果、地質の違いから、墳丘の大半は元々あった丘を削ってならす「地山削り出し」の手法で築造されたことが明らかになった。 前期古墳に特徴づける壺型埴輪 前方後円墳はお椀を2つ伏せたように並んでいる見た目だが、西の前方部は後世の盛り土で、高さが数メートルせり上がっていることが今回初めて突き止められた。 これらのトレンチからは大量の土器片がみつかった。古墳時代の前期、特に東日本での副葬品を特徴づける壺型埴輪の破片だ。いわゆる人型や馬型の埴輪が出てくるのは古墳時代の後半5世紀以降になってからだそうだ。 今回は「コンテナ3箱分」(滝沢教授)もの土器片が見つかった。前方と後円の中間部、「くびれ」部のトレンチからは長さが40センチほど「底の部分だけ欠けた」ものが見つかったという。 現地説明会には同市内外の古代史、郷土史ファンら68人が集まった。滝沢教授の総括的な解説の後、各トレンチで研究室の学生による説明が聞けた。展示された壺型埴輪片の周囲には人だかりが出来た。 同市上高津貝塚ふるさと歴史の広場の比毛君男副館長は「これで調査は完了。トレンチは埋め戻して報告書にまとめる作業に移る。出土品を展示する機会はぜひ持ちたい」としている。(相澤冬樹)

猪口孝先生の訃報に接して《文京町便り》35

【コラム・原田博夫】11月27日夜、思わぬ火災事故がTVなどで報道されました。猪口邦子・参議院議員の住居が火災に遭われ、その後、ご夫君・猪口孝先生(東京大学名誉教授)とご長女が亡くなられたことが判明しました。私は孝先生とは2011年に初めてお目にかかってから、重要なタイミングで刺激と激励を受けていましたので、残念な気持ちでいっぱいです。今回は、そうした経緯を踏まえたエピソードを3つ紹介します。 一つは、私が研究代表を務めていた専修大学社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)研究センター(文部科学省私立大学戦略的研究基盤系施支援事業、2009~13年度)主催のシンポジウム「アジアのソーシャル・キャピタル―実態調査を踏まえて」(2011年12月3日)で、基調講演を引き受けていただきました。 孝先生は当時、新潟県立大学長(2009~17年)で何かとご多忙でしたが、自らアジア・バロメータ調査を精力的に進めていたこともあり、われわれの研究グループをその後発グループ(の一つ)として認めてくださり、その立ち上げを寿(ことほ)ぐ観点からも出向いてくださり、この種のサーベイ調査の課題を指摘してくれました。 二つは、孝先生が創始者・編集長を務めていたAsian Network for Public Opinion Research(世論調査のアジア・ネットワーク)の研究大会が新潟トキメッセで2014年11月29日に開催され、そこに招待されたことです。共同論文の発表後、数名の招待発表者と、孝先生の研究チーム(新潟県立大学以外の関係者も)数名による会食(情報交換の機会)を設定していただきました。 そこで、中堅・若手研究者に強調されていたことは、英語による論文・著作を発表することでした。学問で(それ以外でも)世界で認められるには、現状では英語だ、というのです。それを自らに課している、と繰り返していました。 先生のサービス精神に驚く 三つは、ISQOLS(国際「生活の質」研究学会)の第16回年次大会が香港工科大学で2018年6月14日に開催され、私もそこで共同論文を発表しまとき、孝先生は基調講演者でした。 私は会場の前方で聴講していましたが、孝先生が突然、私の名前を挙げ指さし、日本でもアジアをベースにしたサーベイ調査を進めている研究グループがいる、と言及してくれました。先生の講演後、数名が私に近寄り、情報交換を求めてきました。講演者の影響力は大だな、と実感した次第です。また、孝先生のサービス精神には驚きました。 前回コラム(11月24日掲載)で触れた英書(邦語タイトルは『アジアにおけるソーシャル・ウェルビーイング(社会的安寧)、発展、多様な近代化』)も、孝先生の叱咤激励へのささやかな回答の一つです。国連大学上級副学長(1995~97年)などの公職で多忙な中、若手の先導役も務めた猪口孝先生の御霊に同書をささげたいと思います。(専修大学名教授)

103万円の壁、メディアは正しく検証せよ《ひょうたんの眼》74

【コラム・高橋恵一】先の衆院選で国民民主党が「103万円の壁を撤去して手取りを増やす」という公約を掲げ、議席を4倍に伸ばした。さらに、所得税の基礎控除下限を103万円から178万円に引き上げ、地方税の基礎控除も同額以上に引き上げるよう主張している。 壁撤去の手段は、基礎控除を178万円まで引き上げるという所得税減税で、累進課税の裏返しだから、103万円の低所得者(210万円)の減税額に比して、高額所得者(2300万円)の減税額は約38万円ということになり、格差が拡大し、減税による経済効果も薄くて、期待できない。 ところで、103万円の壁見直しによって、年収103万円以内の給与で働いている人(約500万人?)の手取りは増えるのだろうか? 壁の撤去は、178万円まで給与を上げてもよいということで、給与を支払う側が、年額178万円に賃上げするということではない。 年末になって、年収の壁に達し、働き控えが起こると、職場が機能しないから、壁を越えて就労時間を増やせば給与が増えることになる。しかし、零細事業者にとって、人件費負担を増やすことは簡単ではない。最低賃金の引き上げや従業員の就労抑制の圧力で賃上げをせざるを得ないとしても、賃上げする原資の裏付けが無ければ、最低限の賃上げしかできないだろう。 国民民主党は手取り増加=賃上げをできる方策は示していない。一方の所得税減税の財源も明示していないから、受けを狙った「絵に描いた餅」と言わざるをえない。 手取り増は賃上げが大前提 低賃金を改善するには、最低賃金の引上げが必要だが、1500円への目標時期は5年後だ。それでも先行国のヨーロッパやカナダ、オーストラリアなどには遠く及ばない。 低賃金構造の根底は、中小零細事業者の置かれている日本の産業構造の偏りにある。大企業の下請け企業や原材料調達先への低コスト指向支配を変えなければなるまい。中小零細事業者やそこで働く労働者の交渉力も高めなくてはなるまい。 最近の報道では、来年の春闘の賃金要求額が、大企業労組は5%引き上げ、中小企業労組は6%引き上げ、合同労組・ユニオンは10%引き上げとなったという。全て要求通り実現したとすると、103万円以内の労働者は、113万円まで年収が増え、所得税と地方税が課税されても、3~5万円手取りが増え、壁の引上げがあれば、10万円手取りが増えることになる。国民民主党の最低賃金引き上げの主張は1150円で、年収113万円弱になる。同党の本音もそのあたりなのだろう。 いずれにしても、手取りが増えるかどうかは、雇用主が賃上げすることが大前提で、賃上げ能力を確保しなければ、実効性はないということだ。国民民主党や協議している自公与党も、壁の引上げを支持する経済評論家やメディアも、手取り増額の具体的手法を提示していない(できない?)。無責任な議論としか言えない。 最近の政党のプロパガンダは、フェイクまがいのものも多いのに、SNS効果で世論をミスリードする例が増えている。マスメディアは適切なファクトチェックをすべきだ。(地歴好きの土浦人)