【コラム・奥井登美子】茨城県の森林保有率は全国でワースト2。東京都よりも悪い。県北には森林があるが、県南の水道水の水源地、霞ヶ浦周辺には森林がほとんどない。森林は「水の浄水器」である。私たちで浄水器の森を造ろうではないかと、岡野静江さんが言い出して、つくば市の森林総合研究所の人たちに相談したのが始まりだった。
岡野さん所有の農地を森林に換えてもらった。2000年8月、森林総研3人、県庁の林務課、霞ヶ浦町(現かすみがうら市)、同町加茂の住民3人、霞ヶ浦市民協会5人で、「どんぐり山」造りの作戦を練る。2000年10月、「どんぐりの里子つくり」130人が参加。翌年4月、100人の人が苗植えに参加してくれた。
すごい、すごい。しかし、植えたのはいいものの、小さな苗が雑草に埋まってしまいピンチに。ご近所の人たちは見るに見かねて除草剤を散布してくれた。市民協会では農薬の勉強会をして、やはり除草剤は止めようということになった。
しかし草抜きは人手がかかる。岡野家の庭に、半分にした竹を何段にも組んだ本格的な流しそうめんの設備をつくり、東京の台東区の子供会にまで呼びかけて50人集め、人の手だけで2002年は4回の草刈りを敢行した。
暑い中、虫に刺されたり、大変だった。何かいい方法はないかと、みんなで何回も議論し、ペーパーマルチをやってみることになった。スーパーのカスミさんから段ボールを大量にもらってきて、苗と苗との間に敷き詰めた。段ボールの届かないところは古新聞紙。森が古い段ボールと新聞紙で埋まって、何やら奇妙な風景が出来てしまった。
木が育つと周囲の生き物が変わる
霞ヶ浦町の人たちはとても親切で、「こんな所に段ボールとは何だっぺ」と言って片付けてくれる人までいて、「除草の手間を省く紙類です、動かさないで下さい」というポスターをべたべた貼り付けた。段ボールの除草は大成功。2~3年で土の中に埋もれてしまうまで雑草取りの役目を十分果たしてくれた。
2003年、「茨城県の自然保護大会」の草刈り実習の場に、どんぐり山が選ばれてうれしかった。しかし、冬も段ボールを敷き詰めていたせいか、段ボールの下が暖かいので気に入ったらしいヤマカガシ君とマムシ君が、何匹も住み処にしていて、びっくり。現地のおじさんが手で何匹か捕まえて採ってくれた。
森林総研の斉藤和彦さん、島田和則さんたちが「木が育つにつれて周りの生き物が変わります。観察すると面白いですよ」と言っていたので、私は、それを実際に見せてくれたマムシ君に感謝したいと思った。2005年、とうとう、夢にまで見た国蝶のオオムラサキが出現。自然は私たちにすばらしいプレゼントをしてくれたのだった。(随筆家)
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