古家晴美さん

【コラム・古家晴美】鮮やかな新緑に包まれたゴールデンウイーク。田んぼには、まだ植えつけられたばかりのか細い苗が整然と並んでいる。

かすみがうら市牛渡では、「へいさんぼう」という御田植神事が、現在も5月5日に行われている。男女の性の営みを神前で擬似的に披露し、稲の豊作を祈る行事だ。市の無形文化財に指定されている。一方、現在もこの日に湖岸では、集落の漁師が集い、水神祭りを行っている。田も畑も湖も、これから本格的な食糧生産・漁獲の季節に入る。

初回に取り上げるのは、イサザアミ。地域によりコマセ・イサザなど様々な呼び名がある。アミ目アミ科の甲殻類。体長5~10ミリ。一見、ごく小さなエビを思わせる体形だが、ハサミを持っていない。佃煮でおなじみかもしれない。主な漁期は春だ。

霞ケ浦北岸(かすみがうら市)側の人は、南岸(稲敷市から美浦村、阿見町、土浦市にかけての対岸)を、南岸の人は北岸を「ムコーバ」と呼んできた。かすみがうら市牛渡のある漁師は、昭和30年頃まで船に自転車を載せ対岸に渡り、煮干しや塩辛に加工したイサザを自転車で行商した。

南岸では、定置網でエビやゴロを主に漁獲し、イサザをあまり獲っていなかったからだと言う。霞ケ浦のどこでもよく採れたタン貝(カラスガイ)の殻にアミの塩辛を載せ、汁気がなくなるまで炭火で炒りつけるのが最も美味しいとのこと。

生シャジャは3年前の傷も膿み出す

かつて浮島(現稲敷市)でも、この時期に麻生(現行方市)から売りに来た生のシャジャ(イサザアミ)を大量に買い、大きなタン貝を鍋代わりにしてそこで塩味で炒りつけ、田植えでの疲れを癒した。滋養がある「生しゃじゃは3年前の傷も膿(う)み出す」と言われたとの記録がある。(『茨城の食事』)

一方、南岸の阿見町大室では、コマセ(イサザアミ)を入れたドンドン焼きをこの時期に作り、農作業の合間や子供のおやつに出した。これは釜揚げのコマセをうどん粉で溶いて焼いたもので、しょうゆやソースを塗って食べた。

鉄製の厚手の平釜に薄くなたね油を引いて生地を流し、下から薪をくべながら火力を高めると鍋が高温になり、あっという間にきれいに焼けた。この辺りでは、水田の裏作に菜種(アブラナ)を栽培しており、それを油屋へ持って行くと、なたね油1斗缶と交換してくれた。油で焼くと香ばしくておいしかったと言う。

ぜいたくな食材ではないが、それぞれの季節の恵みを取り込み、そこにささやかな喜びを感じてきた県南地域の食生活の断片を紹介していきたいと思う。(筑波学院大学教授)

【ふるいえ・はるみ】筑波大学第2学群比較文化学類卒、同大学院博士課程歴史人類学研究科単位取得満期退学。筑波学院大学経営情報学部教授。専門は民俗学・生活文化。神奈川県生まれ。