【コラム・沼尻正芳】子が小さいころは仕事中心で、我が子を描く時間がつくれなかった。岸田劉生のように我が子を絵にしたいと思ったが、ちょっとしたスケッチや年賀状に描くくらいだった。
退職後、娘が結婚して2人の孫が産まれた。娘家族の家までは車で約15分だ。娘家族はたびたび一家で泊まりに来て、上の孫が幼稚園に入るころまで我が家は2世帯家族のようだった。「孫は無条件でかわいい」とよく言うが、孫たちとの交流はとても楽しい。あふれる好奇心や一心に見つめながら挑戦する姿は、いつしか忘れていた子どものころが蘇るようで、新たな発見でもあった。
幼子の無垢(むく)で豊かな表情はとても魅力的だ。日に日に変化する孫たちの成長ぶりは目を見張るばかりで、孫たちと一緒に遊びながら毎日のように写真を撮った。絵にできそうな写真を選んでは、それをもとに油彩で描いた。
絵は、孫たちの成長を後追いしながら増えていった。微笑む様子、真剣な様子、驚く様子、初めてのお座り、歩き初めなど、折々の姿や表情をモチーフにして描いた。孫たちの絵は、今、20点を超えた。最近は少し描き慣れてきたが、最初のころは描いては直し、描いては直していた。
悪戦苦闘で描き続けると目や鼻や口が微妙にずれたり、髪の量や顔の形などのバランスが崩れたりして、自分の思いに絵の表現がついてこなかった。幼子の柔らかで透き通る肌の色調や陰影表現にも苦労してきた。背景をどうするか、主役をどう生かすかその空間処理も難しく、試行錯誤はまだ続いている。
「明るく温かくたくましく健やかに」
肖像画は、顔も姿も背景もモデルの雰囲気を大事にしなければならない。だが、写真そのままではない。単なる似顔絵とも違う。風刺画とも違う。「明るく温かくたくましく、健やかに育ってほしい」。描き手の思いが絵に表現されなければ肖像画にならない。画家のフィルターを通した内的なものを表現していかなければならない。
描いた絵は、娘家族の家、娘の夫の実家、我が家、それぞれの家に飾っている。孫たちはそれらの絵を気に入ってくれているようだ。作品としてはさらに飛躍させたいと思っているが、孫たちに喜んでもらえることが何よりもうれしい。
ここ6年、毎年孫たちの絵をグループ展や個展で展示してきた。八王子に住む娘の義父母も展覧会場に毎年来てくれる。孫たちの絵は、娘家族、娘の夫の家族、我が家の3家族が会うきっかけをつくり、孫たちの絵を観て皆で会食することが毎年の恒例行事になった。
今年の春、上の孫は小学生に、下の孫は幼稚園児になった。今年は、孫たちの入学、入園を祝って3家族で高尾山にハイキングした。6歳と3歳の孫たちも自力で山頂まで登った。
日々成長する孫たちを、これからも心を込めて描いていきたい。孫たちの健やかな成長を願いながら、絵も自己表現としてより飛躍させ、成長させていきたいと思う。(画家)