【コラム・中尾隆友】近年、地方の多くの経営者から人手不足を懸念する声が高まっている。私の周りの経営者の中にも、ベトナム、カンボジア、ミャンマーといった国々へ人材獲得に乗り出している人が増えている。そういった背景もあり、今年の4月1日に施行された「改正出入国管理法」への彼らの期待は大きい。
しかし、私が地方経済の視点から懸念しているのは、外国人労働者の東京圏への一極集中がこれまで以上に進むことになるだろうということだ。なぜなら、以前からある「技能実習生」の制度では、外国人労働者は一回決まった勤め先から移動することができなかったのに対して、今回の新しい「特定技能」の制度では、「業種の変更はできないが、勤め先は自由に選ぶことができる」という仕組みが組み込まれているからだ。
先進国で働いている外国人労働者の多くは、初めから永住や国籍取得を目的としてやってくる移民ではない。将来のための貯蓄や母国への仕送りのためにやって来ているので、一生懸命働くことによって、できるだけ多額のお金を稼いで帰国しようと考えているのだ。
都道府県の最低賃金を上位からみていくと、東京985円、神奈川983円、大阪936円、埼玉・愛知898円、千葉895円と並んでいる。その一方で下位からみていくと、鹿児島761円、青森・岩手・秋田・鳥取・高知・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・沖縄762円、山形763円、島根・愛媛764円と続いている。茨城は822円と全国では16位に位置しているが、東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)に比べるとどうしても見劣りしてしまう。
外国人労働者は高賃金の東京圏に集中?
外国人労働者の立場から判断すると、地域によって最低賃金が約20~30%も異なるというのは、働く場所を決める上で非常に大きな要素となりうる。ただでさえ外国人労働者の30%が東京都に集中している現状にあるというのに、賃金水準の高い東京圏に今まで以上に集中していく一方で、地方(とくに東北、四国、山陰、九州など)では人手不足がますます深刻化する事態が予想されるわけだ。
大企業の地方の工場が多い製造業の分野ならまだしも、地方に雇用が集中する農業・漁業といった分野では、外国人労働者が賃金の高い埼玉・千葉に集まる傾向は強まっていくことになるだろう。また、全国いたるところで人手不足にある介護の分野でも、外国人労働者が希望する介護施設は、東京圏の施設に偏るという傾向に拍車がかかっていくのではないだろうか。
茨城も含め地方の企業が外国人労働者に働きに来てもらうためには、日本人と同等の給与・待遇を提供することが必要不可欠だ。決して低賃金で働かせて搾取しようなどと考えてはいけないのだ。(経営アドバイザー)
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