【コラム・奥井登美子】薬の飲み方説明会で大事なのが質問の時間だ。高齢者が、急速に変化する今の医療とどう向き合って生きているかが、質問の内容から少しわかるような気がする。
近ごろは、サプリメントをどう考えて、利用するかしないか困っているという質問が多い。サプリメントの過剰な広告は、テレビ、週刊誌、新聞などで見ても聞いても、とにかくしつこい。生真面目な人の中には、何か一つくらい飲んでいないと健康が保てないのではと、心配になる人もいるらしい。友達や親戚の人に薦められて困っているという人もかなり多い。
私としては「サプリメントは、全部、完全に無視してください」と言いたいところだが、それがそうともいえない事例もある。
60歳の女の人。神経がぴりぴり、いつも興奮していて、どうしても眠れない。いろいろな科の医者に罹(かか)って薬を試してみたが、治まらない。ある日、市販のサプリメントを飲んでみたら、あら不思議。気持が落ち着いて、よく眠れるようになったという。
その人にとって、そのサプリメントはその人なりの精神安定剤なのだ。以来、私は「サプリメントは精神安定剤として必要ならば飲む。それ以外は無視していい」と、言ってしまう。
医者と薬剤師をお友だちに
漢方薬も、足つりの痛みなど、劇的に効くことがある。江戸~明治時代、感染症などでばたばたと子供たちが死に、平均寿命が30歳以下だった時代を、漢方薬で生き延びてきた遺伝子が、私たちの身体の中で生きているらしい。
今の漢方薬は、インスタントコーヒー同様にフリーズドライになっているので、これを茶碗に入れて、煎じ薬としてお湯を入れ熱くして飲んでみる。煎じ薬といっても若い人たちは全然わからない。
「インスタントコーヒーを粉のまま飲む人いないでしょう」。熱湯に入れて飲んだときに美味しいと感じた漢方は効くけれど、不味(まず)くて、匂いもいやだと感じた漢方は効かない。私は自分を実験動物にして、漢方の味見を実験してみた。不思議な薬なのだ。
急速に変化する医療の世界を賢く生きるのには、「セカンドオピニオン」として、その人の生活状態をよく知っている人で、つまらないことでも大事なことでも、何でも相談出来る医者1人と、薬剤師1人を友達にしておいて、気楽に相談してみる、それが一番いいのだというほかない。(随筆家 薬剤師)
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