筑波学園病院(つくば市上横場、病床数331床)に男性不妊専門外来が設置されている。産婦人科が不妊治療に取り組み、高度な体外授精や顕微授精などを行う県内でも数少ない病院だ。同院の「男性」を冠にした不妊外来の専門医と、男性不妊治療をしたことで妊娠したカップルに話を聞いた。
これまで不妊は女性の問題とされてきたが、近年は男性側にも原因があることが解明され、男性に原因があるケースは半数近くに上る。不妊に悩むカップルは共に婦人科の門をくぐり、男性が不妊症の場合は泌尿器科で不妊治療を受けることになる。
婦人科を受診することをためらう男性は多い。実情に即し、同病院泌尿器科は2015年5月、一般外来の他に男性不妊専門外来を設置。男性不妊が専門の山崎一恭医長を中心に、専門外来診療と手術を行っている。山崎医長は「同性だから分かる。男のプライドと羞恥心が邪魔をする」と話す。
男性不妊の原因の多くが精巣(睾丸)の機能低下によるもので、乏精子症や精子無力症などが挙げられる。これらの疾患を引き起こす大きな原因となっているのが、睾丸周辺の静脈が太く腫れ、曲がりくねった状態になる精索静脈瘤。静脈を結び、血液の逆流をなくす手術によって検査結果や妊娠率の改善が見込まれるという。同病院は小さな傷口で迅速に治療できる手術用顕微鏡と腹腔鏡を導入。最新の治療法によって患者の負担は軽くなり、手術の件数が増えている。
山崎医長の着任から今年6月までに精索静脈瘤の手術を受けた患者79人中、妊娠したのは43人(妊娠率54.4%)に上る。山崎医長は妊娠率について「同時に女性側の治療も行われる事が多く、男性側の治療の結果なのか不明な点もある」と率直に語る。なお、妊娠の件数は自然妊娠の他に人工受精、体外授精、顕微授精を含む。
日本産科婦人科学会は1年以上妊娠しない場合を「不妊」または「不妊症」と定義しており、そこが治療を考えるタイミングか。山崎医長は「男女とも35歳を境に妊娠率は下降する。子どもが欲しいなら1年待たずに早めの検査と治療が望ましい」。
つくば市在住の男性(34)と妻(32)には小学1年の男児がいる。2人目が欲しかったが授からず、2人で検査を受けることにした。妻に不妊の症状はなかった。男性は昨年12月に同病院を受診して精索静脈瘤と診断された。3月上旬に山崎医長の執刀で手術を受けて5月末に妊娠が分かった。出産予定は来年1月中旬だという。
男性は「正直手術は怖かったし、男性機能が衰えるのではないかという不安もあった。ところが全身麻酔で目が覚めたら終わっていて、術後は痛みもないし平常通り。入院は1泊で医療保険の範囲内だったのも良かった。くよくよ悩むより一歩踏み出したほうがいい」。妻は「2人の問題だからと話し合って治療してきたことが良い結果を生んだと思う」と笑顔で語ってくれた。
男性不妊専門外来は山崎医長と泌尿器科の内田将央医師が担当し、診療は月曜と土曜日。完全予約制(予約センター029-836-6688)。