【コラム・及川ひろみ】今ごろ、宍塚大池の堤防下の谷津を歩くと、遠目にもハンノキの枝の先端が紫に色づき、花が咲いていることが分かります。この花は風媒花(めしべまで花粉を運ぶために風を利用する花)です。昆虫を呼び寄せる必要がないので、花びらはありません。花は目立ちませんが、近づいてみると、枝の先には猫の尾のように垂れ下がった、赤みを帯びた雄花が見られます。
さらによく見ると、花の根元には膨らんだ雌花が見られます。夏になると、雌花は丸いうろこ状のものに覆われた緑の固い実になり、秋にはこれらが離ればなれになり、種がこぼれ落ち、褐色の硬い実の殻(果穂)が小さな松かさのような形で残ります。
湿地に育つハンノキ、多くがまっすぐ天に向かって育ち、独特の景観をつくります。昔、田の縁に植え、刈った稲の束を干すのに、木と木の間に竿(さお)を掛け使っていました。
ハンノキは、田んぼのような湿った所でも育つ植物で、根には根粒ができ、根粒内のバクテリア(根粒菌)が窒素を固定することから、やせた土地でも育ちます。根粒といえばマメ科植物が有名ですが、ハンノキにも根に根粒が見られます(根粒菌はマメ科のものとは異なります)。
伐採木はヒラタケ用のホダ木に最適
大分前の話ですが、田の近くにあるハンノキが大きく育ち、地元の方の田が日陰になりました。耕作をされていた方の希望で2~3本伐採しました。伐採した木はヒラタケ用のホダ木に最適で、地元の方と利用しました。数年間、大量のヒラタケが収穫できました。こんな楽しみがあるのも里山の魅力です。
ハンノキには、鮮やかな金緑色に輝く美しいチョウ、ミドリシジミが育ちます。初夏、葉先に止まり、緑の金属光沢の羽を開閉させながら、ひたすら縄張りを守る姿が見られます。冬になるとハンノキ林には、さまざまな小鳥がやって来ます。特に谷津で餌をついばむカシラダカ、100羽以上がパラパラ飛び立ち、ハンノキに止まり、落ち着きなく頭を左右に振る姿が見られます。
宍塚のハンノキ、宍塚大池の水辺にも見られますが、ハンノキらしい樹林景観を形作っているのは、大池の堤防下の谷津の林だけです。この林は生態系にとっても、里山の景観としても大切な場所の一つになっています。(宍塚の自然と歴史の会代表)
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