早大政経・土屋ゼミ・インタビュー15

勝負の分かれ目

斎藤:メディアが一般企業のようにグローバル化することは可能と。

坂本:時事の証券部長のとき、私が手掛けた電子メディアの競争相手は、日経のQUICK、米国のブルームバーグ、英国のロイターの3社でした。

そのころのことは、文藝春秋の下出進氏のロングインタビューを受け、いろいろ話しました。下出氏は取材先を拡げ、「勝負の分かれ目―メディアの生き残りに賭けた男たちの物語」(講談社、1999年刊、2400円)という本にまとめています。

私は、ブルームバーグとかロイターとか外国勢の日本進出に抵抗、外国メディアの記者クラブ加盟を妨害する悪役として描かれています。古本屋かアマゾンで手に入れば、読んでみてください。(笑)

そのころ、時事もグローバル化するにはどうしたらいいか考え、ブルームバーグ買収を夢想したこともありました。私が時事の社長になっていたら、買収に動いたでしょうね。電通株上場で、大株主の時事と共同には多額の含みがあり、軍資金は十分でした。(笑)

相互補完的な媒体

齋藤:そのあたり、もっと詳しく。

坂本:そのころ、ブルームバーグの社長、マイケル・ブルームバーグ氏が会社を処分し、政界に転出するという噂が流れていました。売り値は2億~3億㌦でしたか。

結局、彼はニューヨーク市長になりましたが、会社は売りませんでした。それどころか、自社の含みを政治資金にし、大統領選に出ようと考えたこともありました。

ブルームバーグ氏は、日本の事業を拡大しようと、よく東京に来ました。パーティや会見で同社のことを聞くと、ビジネスの内容が時事と補完関係にあり、魅力的な会社であることが分かりました。

ブルームバーグは①英語版電子メディアを使い②世界の市場関係者に③経済情報サービスする―ビジネスだけをしておりました。時事は①日本語版電子メディアを使い②国内の市場関係者を相手に③経済情報をサービスする―ビジネスが収益の柱でした。

顧客の電子端末に提供するコンテンツも、データに強い―記事には弱い―ブルームバーグ、記事に強い―データには弱い―時事と、サービスも補完的でした。

旧知の証券会社M&A担当役員と、プレスセンターで飯を食い、時事首脳のGOが出たら仲介してくれるかと聞いたら、「買収がうまく行ったらNYに送り込む社長はいるのか」「考えてなかった。いなければ僕が行くしかないか」―こういったやり取りがありました。彼は今、BMWのバイクに乗って世界中を旅行しています。(笑)

この話を時事の役員に話したら、冗談かと思ったのか大笑いされました。私には妄想癖があるということですかね。この構想、いいポイントを突いていたと思いますが。

自社色に染めないと

要は、日本のメディアが国際化するには、ブランドがある既存の会社を買収するしかないということです。日経のように、「FINANCIAL TIMES」というブランドを買わないと、外に出るのはなかなか難しい。

しかし、日経は「FINANCIAL TIMES」に社長を送り込まず、英社の経営陣を尊重すると言っています。これではダメです。日経の色に染めなければ、多額の資金を投入して買収した意味がありません。この辺は物足りないですね。

藤本・齋藤:なるほど。ありがとうございました。(了)

(インタビュー主担当:藤本耕輔 副担当:齋藤周也、日時:2015年12月4日、場所:東京都新宿区・早稲田キャンパス)

あとがき 自己紹介的な「メディアあれこれ」は今回で終わります。「吾妻カガミ」は次回以降、一回完結型になります。はじめにでも触れましたように、地域のこと、(国の)内外のこと、いろいろなテーマを取り上げます。不定期ですが、よろしくお願いします。

【NEWSつくば理事長・坂本栄】