【コラム・坂本栄】メディアでは連日、カルロス・ゴーンの強欲振りが話題になっています。ゴーンといえば、彼が日産に乗り込んでからしばらくして、インタビューしたことがあります。私は当時、通信社の企画記事の責任者でした。何か元気が出る新年用のメニューはないかと考えていて浮かんだのが、ゴーン社長とのQ&Aでした。表情豊かな顔写真を4~5枚添えた長文の記事は大ヒット、多くの地方紙に使ってもらいました。

成功が生んだ傲慢

このインタビューの後、彼は雑誌にも顔を出すようになり、コスト・カッターとして日産再生のヒーローになりました。ただ私は、彼を英雄視するのはいかがなものかと思っていました。経費カットで利益を出すのはそう難しくないからです。日産のような会社では特にそうでした。

ゴーン登場のずっと前、20代のときに自動車を担当しましたが、当時の日産トップは大手銀行出身で、組合が幹部人事に口を出すという会社でした。そんな組織でしたから、あちこちぜい肉が付いていたと思います。内部の人にとってコスト切りは容易でありませんが、外国人の再建屋にとっては正義です。難しい仕事ではなかったでしょう。

バブル崩壊後の当時、いろいろな過剰を減らすことが企業経営に求められていました。ゴーンはそうした状況を追い風に、日産のV字回復を演出したわけです。でも、その大成功が傲慢(ごうまん)を生むことになりました(インタビューのころはまだ謙虚でしたが…)。

ただ、彼が年俸と同額をリタイア後にもらえるよう差配していたことには、同情しています。ルノー・日産・三菱グループ級のトップ報酬としては国際標準だからです。グローバルビジネス界の常識の半額では、プライドが許さなかったのでしょう。結果、カネ、カネ、カネの人になってしまい、哀れを感じます。

日仏自動車バトル

ルノー・日産・三菱グループにとっては、ゴーン後が問題です。日産はルノーに救済され、三菱は日産に救済され、3社はアライアンス(連合)を形成していますが、日産は「俺が1番だ(経営内容は1番よい)」と言い、ルノーは「俺が親だ(日産株の4割を抑えている)」と言っているからです。

これまでは、良くも悪くもゴーンという権力者が連合を仕切ってきました。大手銀行に捨てられた日産をルノーが拾い、大手企業グループに見捨てられた三菱を日産が救ったのですから、当然です。でも日産が力を付け、親のルノーを軽視するようになり、厄介なことになりました。

ゴーンは、連合形態では投資に無駄が多いと、ルノーが支配する1社化(合併)を考えていたそうです。競争激烈な業界ですから、生き残り策としては当然です。そうはさせないと、日産はゴーンの強欲スキャンダルを暴露しました。ルノーVS日産。これに日仏の政府が絡み、複雑なバトルになりそうです。(経済ジャーナリスト)