【橋立多美】葬儀の形式が多様化している。最近は家族だけで送る「家族葬」や宗教にこだわらない無宗教の葬儀などがある。生きている間に自分の葬儀を執り行う「生前葬」も話題を集めており、都心では、葬儀社が請け負ってホテルの宴会場を利用する場合が多い。
つくば市高崎のつくば双愛病院内にある介護老人保健施設「ひまわり」の長廻(ながさこ)紘施設長(77)は7日、土浦のホテルで、お世話になった人や親しい人に感謝の気持ちを伝える「生前葬」を執り行い、友人や同施設の職員など約50人が列席した。
支えてくれた人に感謝
宗教色はなく、服装は自由。香典も不要で、会場入り口には1歳頃の長廻さんが祖母におんぶされた写真が置かれた。
長廻さん本人が喪主を務めた。まず喪主自らが舞台に上がり「元気で意識のはっきりしているうちに区切りを付け、新たな生に向かう起爆剤にしようと生前葬を企画した」と語りかけた。そして、人生の岐路に立ったときに支えてくれた友人や知人、家族の話を織り交ぜながらこれまでを振り返り、感謝の気持ちを述べた。
続いて長廻さんの新たな人生の門出に向け、同病院の高田喜哉薬局長の音頭で乾杯が交わされると、会場は和やかな雰囲気に包まれた。ユーモアに満ちた友人たちによるスピーチ、会食や歓談、余興として津軽三味線の演奏が行われた。
「初めは冗談かと」
島根県出雲市で育った長廻さんの幼なじみで、同市から駆け付けた税理士の山内英明さんは「葬儀について深く考えたことはないし生前葬に興味はない」。東大医学部当時の友人片山栄さんは「(生前葬の知らせに)初めは冗談かと思ったが斬新奇抜な彼ならやるなと思い直した。遺書を書いたり終活を始めたが生前葬をする気はない」と話した。
長廻さんの長女は「父が本当に亡くなった時の葬儀はどうしたらいいかという心配はあるが、今は父の好きなようにさせてやりたいと生前葬に賛成した」と話してくれた。
「やったことない」葬儀社尻込み
長廻さんは「生前葬に施設職員を招いて慰労するのも企画の目的」と語った。生前葬にかかった費用は会食代や遠方からの列席者の旅費、宿泊費などを含めて約50万円。喪主の長廻さんが全額支払った。
生前葬の準備と当日の進行を任された、ひまわりの事務長代行・村松弘二さんは「つくば市内のホテルは断られ、土浦のホテルマロウド筑波に決めた。葬儀社5社は『これまでやったことがない』と尻込みされた。初めての経験で戸惑うことが多かったが、施設長の『かたちにこだわらず、楽しく集えればいい』に助けられた」という。