【コラム・佐野賢治】

前口上
私は1970年、筑波研究学園都市建設法制定のもと、開学間もない筑波大学で民俗学を学び、その後、愛知・筑波・神奈川大学での勤めを終え、半世紀余の時を経、つくばの地に戻りました。その間、つくば市は旧6市町村の在地の旧住民、研究所・大学関係者とその家族、全国各地からの学生たち、外国人研究者・留学生の新住民が居住する全国的に見てもユニークな地域社会を形作ってきました。
「つくば」は豊かな自然と歴史、最新の科学技術、国際情報にもふれ得る恵まれた環境を有した地域です。「常民」とは民俗学の言葉で、同じ地域「郷土」で日常生活を共に営み共感・共属意識を持つ住民、庶民を意味します。民俗学の大成者、柳田国男(1875~1962)は「郷土」を軸足にして広く世の中を見、人々の幸せを実現する「現代科学」であることをこの学に求めました。
この「郷土」で柳田の木曜会にならい、新たな「故郷」づくりを目指し、毎月第3木曜日、二の宮交流センターを会場に「つくば常民大学」を有志とともに開催、今日的課題を民俗学視点から取り上げ、本年10月で61回を数えます。
本連載は、「つくば常民大学」の時々の話題の要点、感想を、老隠居の視点、つぶやきとしてつづっていきます。まずは最近のつくば常民大学でのテーマ「女性と聖性」から始めます。
女性の地位めぐり盛んな議論
ジェンダー論に加えこの両年、マスコミはじめ男女平等社会における女性の地位をめぐり盛んな論議が行われました。背景には、昨2025年10月、第104代内閣総理大臣に高市早苗氏が就任、内閣制度発足(1885年)以来初の女性首相となったこと、本年7月、1947年施行の皇室典範の初の改正があり、歴史的に女性天皇も存在する中、女性、女系天皇の皇位継承の是非をめぐる根本的な問題が先送りされたことにもありました。
柳田国男は「女性と民間伝承」(1937)、「妹の力」(1940)でかつて女性は、神秘な霊力を有し、「カミ」と交流できる存在であり、神話や民間伝承、国から家、村の儀礼・行事にその発現がみられるとことを論じました。
9月17日開催の60回例会では、三島まき氏(法政大学沖縄文化研究所研究員)による「映像で見る沖縄の巫女祭祀(ふじょさいし)―久高島のイザイホーを中心にー」の報告。沖縄では現在でも、本土の神主に当たる祭司はノロ(祝女)であり、カミと人を媒介し独自の祭祀世界を形成、祭政一致の琉球王国時代には、最高位のノロ、聞得大君(きこえのおおきみ)は国王のオナリ(姉妹)神として、王と国土を霊的に守護する存在とされました。氏は1978年を最後に中断した、イザイホー行事は島の女性がカミとして再生する入巫儀礼であると同時に、共同体の生命力と秩序を更新する祭祀であり、「おもろさうし」や王府神女組織との関係から、国家祭祀としての側面も再検討する必要性を論じました。
イザイホーの諸儀礼が男子禁制で行われるのとは対照的に、10月15日開催の61回例会では鈴木正崇氏(慶応義塾大学名誉教授)は「女人禁制と現代社会」と題し、祭礼・土俵・山岳など聖域とされる時空への女性の立ち入り禁忌について報告。この話題も含めて次号以下、女性をめぐる聖俗論を何回かにわたり取り上げていきます。(神奈川大学名誉教授)
【さの・けんじ】1950年静岡県生まれ。東京教育大学文学部、筑波大学歴史人類学研究科修了後、愛知大学・筑波大学教員を経て、神奈川大学歴史民俗資料学研究科教授、日本民具学会長、野外文化教育学会副会長を務め、比較民俗研究会・つくば常民大学を主宰。日本学術会議連携会員、文化庁文化財専門委員、日本常民文化研究所長、日本ユネスコ協会連盟未来遺産委員会委員などを歴任。文学博士。神奈川大学名誉教授、(公財)農村文化研究所長、中国・敦煌研究院特聘教授。





