【コラム・瀬尾梨絵】私たちが何気なく足を運び、平積みの新刊を眺め、お気に入りの一冊を探す本屋さん。その本棚の奥では、いったいどんなドラマが繰り広げられているのだろうか。今回ご紹介するのは、本好きなら誰もが一度はその裏側をのぞいてみたかったであろう夢と修羅場の世界を描いた、本田先生の「ガイコツ書店員本田さん」(KADOKAWA、初版2016年出版、全4巻完結)
著者である本田先生ご自身をはじめ、書店で働くスタッフたちが全員「ガイコツ」や「包帯男」「ガスマスク」といった個性豊かで、少し物騒な姿で描かれる本作。そのインパクト抜群のビジュアルにまず目を奪われるが、描かれているエピソードの数々はリアルで生々しく、笑いと悲鳴の入り混じった書店員の日常そのものだ。
日々押し寄せる大量の新刊の荷解き、壮絶な在庫管理、マニアックなお客様からの容赦ない問い合わせ、そして独特すぎる出版業界の商習慣。次から次へと舞い込むトラブルの連続に、ガイコツの頭から汗を流しながら奔走する本田さんたちの姿は、コミカルでありながらも、どこか哀愁とプロの矜持(きょうじ)に満ちている。
この作品の素晴らしいところは、単なるお仕事あるあるの爆笑エッセイにとどまらない点にある。そこにはどんなに忙しくても、どれだけ体力的に追い詰められても、根底にある「本が好き」「この面白い本を一人でも多くの人に届けたい」という書店員さんたちの熱い思いが、全編を通じてひしひしと伝わってくる。
店員たちのシルエットが見える
読者はこの漫画を読むことで、普段何気なく通り過ぎていた書店の棚や、平積みのポップ、フェアのコーナーの見方がガラリと変わるはずだ。「あの一冊の裏には、こんなドラマや発注の苦労があったのかもしれない」「このポップの文字には、店員さんの愛が詰まっている」と、見えない書店員たちのシルエットがはっきりとしてくる。
ネット上で指一本あれば本が買える現代において、街の書店に足を運び、背表紙を眺めながら思いがけない出会いを楽しむ。そんな体験がいかにぜいたくで、かけがえのないものであるかをこの作品は笑いと共にそっと教えてくれる。マンガだけでなく本を読むのが好きな人であればあるほど、ページをめくる手が止まらなくなるはずだ。
次に本屋さんへ行ったとき、レジの向こう側に立つ店員さんの顔が、少しだけ(ガイコツに見えるくらいに?)愛おしく、そして頼もしく感じられるような、私たちの想像力を少し刺激して、温かな余韻を残してくれる、最高のお仕事エッセイだ。(牛肉惣菜店主)





