【コラム・森本信生】宍塚の里山(土浦市)を守る意義は、宍塚を一つの孤立した自然地域として捉えるだけでは、不十分だ。筑波山―宍塚、そして霞ケ浦へとつながる「水と緑のネットワーク」に位置づけてこそ、その価値が明確になる。
宍塚の里山は、森林、谷津田、畑、草原、ため池、水路など、さまざまな環境が組み合わされた多様な生物が生息する生態系である。例えばサシバのような猛禽(もうきん)は、営巣する森林だけではなく、餌となるカエルや昆虫が生息する水田や草地が必要だ。宍塚の生物多様性は、こうした異なる環境のつながりによって支えられている。
さらに宍塚は、筑波山系の森林、土浦・つくば地域の農地、霞ケ浦をつなぐ「水と緑の骨格」の重要な一部である。道路や宅地などによって分断され、孤立すれば、生き物の移動や遺伝的交流が妨げられる。宍塚を守ることは、地域全体の生態系ネットワークを維持することになる。
水のつながりも重要だ。宍塚に降った雨は、森林や土壌に浸透し、谷津、ため池、水田、水路などを経て霞ケ浦につながっていく。宍塚だけで霞ケ浦の水環境が決まるわけではないが、流域の森林、湿地、水田、ため池などを健全に保つ必要がある。里山は雨水を一時的に蓄え、ゆっくりと流す「グリーンインフラ」として、水循環や洪水緩和にも貢献している。
また、里山では自然と農業が一体となっている。森林から供給される水、ため池や水路が農業を支える一方、農業によって維持される水田や草地が、多くの生物の生息場所となっている。自然が農業を支え、農業が里山の自然を支えるという相互関係が存在する。
「自然遺産」「文化的景観」
宍塚の価値は自然だけにとどまらない。上高津貝塚や宍塚古墳群などが示すように、人々が自然と関わりながら暮らしてきた長い歴史がある。自然、農業、歴史、文化を一体として捉えれば、宍塚は「自然遺産」であると同時に、人と自然との関わりが刻まれた「文化的景観」でもある。
さらに、宍塚は生物、水、農業、歴史、人々の暮らしを総合的に学べる教育・研究の場であり、自然観察や農業体験、保全活動を通して、農家、住民、NPO、学校、研究者、行政などを結びつける地域コミュニティの場でもある。
したがって、宍塚を「土浦市に残された一つの里山」とだけ捉えるのは、その価値を小さく捉えすぎている。宍塚は、筑波山からつくば・土浦を経て霞ケ浦へとつながる水と緑のネットワークの中で、生物多様性、水循環、農業、歴史文化、教育、地域社会を結びつける重要な結節点となっている。
宍塚を守ることは、宍塚という一地点を守ることではない。筑波山から霞ケ浦へとつながる地域の「水と緑の骨格」を堅持し、人と自然が共生する流域の基盤を次世代に引き継ぐことである。その意味で、宍塚の里山の保全は、土浦・つくばの自然を守るだけでなく、霞ヶ浦流域全体の持続可能性を支える取り組みといえよう。(宍塚の自然と歴史の会 理事長)






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