金曜日, 11月 28, 2025
ホーム土浦免許返納後は公共交通でお出掛け 土浦のバス事業者が「乗り方教室」

免許返納後は公共交通でお出掛け 土浦のバス事業者が「乗り方教室」

免許返納後はバスに乗る生活にスムーズに移行してほしいと、土浦市でコミュニティバス「キララちゃんバス」を運行するNPOが27日、高齢者を対象に初めてバスの乗り方教室を開催した。

NPO法人まちづくり活性化土浦(同市中央、横山恭教理事長)が実施した。同NPOマネージャーの金澤敦子さん(53)は「免許返納時に初めてバスに乗るのでは戸惑ってしまう。車を運転しているうちに、並行してバスに乗り慣れる生活を送ることが大切。いつでもバスの生活にシフトできるよう、乗り方教室を企画した」と狙いを話し、「キララちゃんバスの乗り方がわからず、利用しない人もいる。乗り方を覚えるきっかけさえあれば利用してくれるはずという思いもあった」と語る。

27日開催されたバスの乗り方教室には、シニア団体、同市港町三丁目寿会の70代から92歳までの男女17人が参加。同NPOの横山理事長は「キララちゃんバスは市ではなく、まちづくり活性化が運行している。足として、キララちゃんバスを利用していただいて、安心して暮らせる環境作りをしたい。今日は実際に乗っていただき便利さを実感してほしい」とあいさつした。

ピアタウンバス停からキララちゃんバスに乗り込む参加者

参加者は港町三丁目バス停から乗車。バスを待つ間、バス停の時刻表に掲載されているQRコードを読み取ると、バスが今どこを走っているかがわかる最新のバスロケーションシステムについても、各自自分のスマートホンをかざして体験した。

乗車する際は、前扉から乗車して乗車券を見せる、降車するバス停名がアナウンスされたら降車ボタンを押して降りるといった流れも体験した。乗車料金の支払い方法として交通系ICカードをタッチしたり、現金で払ったりなどさまざまな方法があることも同法人スタッフから説明を受けた。キララちゃんバスに初めて乗ったという参加者からは「知らなかった」といった声も上がっていた。

バスに乗車すると、窓から見える街並みを見ながら話が弾んでいた。約15分後、ショッピングセンター、ピアタウン(同市真鍋町)で下車して30分ほど買い物やお茶などを楽しんだ。再びピアタウンからバスに乗り、港町三丁目のバス停に戻った。バス代として同法人が1日乗車券を用意した。

乗り方教室に参加した82歳の女性は「初めてキララちゃんバスに乗った。ピアタウンまで近いので驚いた」と話す。78歳の女性は「わいわいと皆さんと楽しく乗れてよかった。今度は仲間でキララちゃんバスに乗ってランチを食べに行きたい」と笑顔で語った。

港町三丁目寿会会長の黒田千勝さん(82)は「半年ほど前にキララちゃんバスから乗り方教室をやりませんかと言われた。会員は高齢者が多いので、免許証を返納して後々バスにお世話になる人も多い。バスは乗り方のコツを覚えれば便利だと思う」と語り「自ら運転するより、バスの方が安全だと思う。キララちゃんバスはコースによっては時間がかかるが『楽しんで乗る』と考えを変えるのもよいのでは」と話した。副会長の結城由行さん(82)は「町内ではキララちゃんバスの認知度は低かったと思うので実施してよかった。寿会だけでなく町としてやるのもいいと思う」と語った。

(左から)副会長の結城由行さんと、会長の黒田千勝さん

寿会は、地域の60歳以上の会員48人で構成され、普段は茶話会などで公民館に集まっている。同NPOが乗り方教室を寿会に依頼したのは、港町の区長がキララちゃんバスの取り組みに賛同し、町内会では初めてサポーター会員になってくれた縁もあったという。

同NPOの金澤さんは「今年8月、視察に行った山形県の庄内交通でバスの乗り方教室を開催しているのを見て、今回の開催の背中を押された」とし、「今後はNPOの理事が住んでいる町に呼び掛けて乗り方教室を開催し、バス利用者を増やしていきたい」と意気込みを語った。(伊藤悦子)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

0 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

交通インフラで地域を変える 小田川つくばみらい市長【キーパーソン】

鉄道や道路といった交通インフラは、通過する地域や周辺を大きく変える。伊奈町と谷和原村が合併して誕生した「つくばみらい市」は来春に市制20周年を迎えるが、開通から20年が経ったTX(つくばエクスプレス)みらい平駅周辺は一大住宅地域に変貌した。TXなどの交通インフラによって同市がどう変わったのか、これからどう変わるのか、小田川浩市長に聞いた。 みらい平地区と旧伊奈の間に新住宅地 2006年3月の町村合併時、新しい市の人口は4万1200人だった。それが今では5万3700人になっており、20年弱の間に1万2500人増加した。死亡者が出生者を上回る人口の自然減を加味すると、それ以上増えたことになる。 「みらい平駅周辺の人口は1万6000人を想定していたが、現在の人口は1万7700人を超えている。市全体の人口の3分の1がTX周辺の新興住宅地(200ヘクタール)に住んでいることになる。TXがなければ、これほどの発展はなかっただろう。まさにTXが『まちづくり』をけん引した」 現時点での問題はTX駅周辺の住宅用地が足りなくなっていること。「これを解決するため、みらい平地区と伊奈東市街地の間にある土地を住宅地にする。駅から1.5キロのところにある約19ヘクタールの土地を開発、完成すると800世帯程度が住めるようになる。来年度には地権者による土地区画整理組合が発足する予定だ」 来年秋にスマートICが開通 つくばみらい市にとって、来年度最大のイベントは常磐道のスマート・インターチェンジ(IC)開通。東京寄りの谷和原ICから3.7キロ、水戸寄りの谷田部ICから7.5キロの地点で整備が進んでおり、秋には「つくばみらいスマートIC」が開通する予定という。 「開通に伴い、インターチェンジ周辺の約60ヘクタールを産業・商業用地として開発、工場や商業施設を整備する構想を立てている。市のほぼ中央部に新ICができ、その周りに商業施設を整備すれば、東京圏からやって来る人も増える。このスマートICは、取手市や龍ケ崎市の人にとっても常磐道に一番近いICになり、これら地域の方にも便利になると思う」 Ⅰ期とⅡ期の工場団地は完売 市を東西に常磐道が貫き、西隣りの常総市や北隣りのつくば市を圏央道が横切ることもあり、つくばみらい市は工場建設の人気エリアだ。旧町村に適地が多かったことが、工業団地整備にプラスになったと言える。 「8年前に土地区画整理組合による区画整理事業で32ヘクタールを工場用地に造成したところ(第Ⅰ期)、短期間のうちに7社の企業立地が決まった。第Ⅱ期区画については県による工業団地造成が進められ、日清食品、ダイキンなど大手企業7社の企業立地が決まった」 第Ⅲ期の工場用地開発があるのか聞いたところ、「今のところは無い。大型工業団地を用意して工場を誘致するのはⅠ期とⅡ期で一段落した。ただ、企業から工場用地がないかと相談があれば、市内の適地を探して要望に応えていきたい」 15年先の人口は20万人? TX、常磐道、圏央道という交通インフラによって、つくばみらい市は「白紙に絵を描くような」まちづくりを進めてきた。15年先、2040年の人口はどのくらいになるか質問したところ、同席していた担当課長に「20万だっけ?」と笑いながら聞き、「冗談、冗談。5万6000人ぐらいかな」と修正した。これまでの勢いが維持されれば、20万人も夢ではないかもしれない。 【おだがわ・ひろし】明治大学大学院ガバナンス研究科修了。会社員、会社役員を経て、2012~17年、つくばみらい市議。2018年から市長、現在2期目。旧伊奈町生まれ、58歳。 【インタビュー後記】埼玉県にも伊奈町があり(いずれも江戸幕府関東郡代伊奈氏の領地)、私の娘家族が住んでいる。圏央道開通前、孫たちに会いに行くのに一般道を使い、片道2時間半もかかった。今では圏央道経由で1時間10分。片側2車線化が完成すると、1時間に短縮される? 交通インフラの充実は生活の形を変える。(坂本栄)

市職員が刑事告発 つくば市生活保護行政めぐり「虚偽公文書作成罪に該当」

県の監査に5年間虚偽報告 つくば市の生活保護行政をめぐる不適正な事務処理に関し、同市が県の監査に対して虚偽報告をしたのは「虚偽公文書作成罪に該当する」などとして、同市職員(40)が20日付でつくば警察署に刑事告発していたことがわかった。 告発内容は、生活保護を担当する市のケースワーカーなどの現業員が受給者に生活保護費を支給するにあたって、組織的に現業員が現金を取り扱っていたにもかかわらず、2019~23年度の5年間にわたり、県の監査調書に虚偽の回答を行い県に提出していたほか、23年度の県の監査でも県に対し「現業員が現金を取り扱うことはない」など事実と異なる説明をしていたなど。告発した市職員は、公務員がその職務を行使する目的で虚偽の文書を作成した虚偽公文書作成や背任などにあたるなどと指摘し、「虚偽が5年以上に及んだ事実を考慮すれば市が組織的に行ったものであることは否定し難い」「すべての事実が明らかになっているとは思えず、看過することはできない」などと指摘している。告発対象者は不詳としている。 現業員の現金取り扱いをめぐる虚偽報告については、県が2024年度に実施した特別監査で、市に対し「監査において虚偽の報告を行う行為は非常に悪質であり、生活保護行政に対する社会的信頼を損なうものとして誠に遺憾」だなどと指摘している(25年3月17日付)。 生活保護費の現金取り扱いをめぐっては、全国各地で現業員が現金を失くしたり取ったりしていたことが分かり、会計検査院が2007年度の報告で是正を求め、厚労省が現金取り扱い手順や決済権者を明確にした事務処理規定の整備や、事務処理方法の見直しなどを求めていた。 つくば市の場合、2015年度に「現業員は原則として金銭等を取り扱わないものとする」などの内部規定を作成し、18年10月に「現金支給については現業員以外の担当職員を指定する」などと改めた。内部規定が守られなかったことについて同市は県の調査に「(内部規定が)組織的に周知徹底されず、引き継ぎもされなかったため適切に運用されなかった。現金取り扱い員の人員不足もあり、現業員による現金支給を組織的に黙認していた。そのため監査においても事実と異なる説明を行っていた認識はあり、虚偽の報告を行っていた」などと回答している。現在は改善され「基準に基づいた運用を徹底し、二度と虚偽報告を繰り返さないことを徹底」しているとしている。 県に対する虚偽報告について、市福祉部は今年6月に発表した報告書の中で「(現業員の現金取り扱いについて)管理職は業務中も『口外しないこと』『台帳に記録しないこと』を指示し、県の監査においても事実と異なる回答をするよう指示していたと考えられる」などと記述している。なぜ5年間も県に虚偽の報告を続けたのかについての原因や背景は、報告書では明らかにされていない。 今回の市職員による刑事告発について同市の五十嵐立青市長は「(刑事告発が)どの部分か確認してないのでコメントできない。(生活保護行政をめぐる同市の不適正事務については)これまでも福祉部の報告等ですべて明らかにしているし、是正も行われているので、我々としてはこれまで通り改善を進めていきたい」としている。 刑事告発した市職員は2022~23年度まで約2年間、市社会福祉課に所属し生活保護行政を担当した。業務の中で、誤支給や誤認定など不適正な事務処理が行われていることを見つけ、内部で是正を訴えたが聞き入れられず、24年2月と3月に各種の不適正事案の是正を求めて市公益通報委員会などに通報した。その後市は、県などからの指摘を受けて24年7月に誤支給や誤認定などを公表し、25年6月に報告書をまとめた。しかし市職員は「すべての事実が明らかになっているとはいえない」などとして、24年8月と25年6月に特別委員会や第三者による調査委員会の設置などを求めて市議会に請願書を出し、不採択となっていた(9月26日付)。 告発した市職員は「最近のつくば市の記者会見や議会での様子を見るに、とても市民に対して誠実に向き合っているとは言い難く、このまま市当局に任せていても遅々として事実は明らかにならないと思い、刑事訴訟法に定められた公務員の告発義務に基づき今回告発した」としている。 つくば警察署は、告発状を受理したかどうかについて「個別のことはお答えできない。仮に出ていたとしても捜査に関わることはお答えできない」としている。(鈴木宏子)

神様の日常は人間の非日常《マンガサプリ》1

【コラム・瀬尾梨絵】私はマンガの大ファン。いろいろな作品を主に冊子で読んでいるが、このコラムでは私が面白いと思ったものを紹介していきたい。初回は、筑波山をモデルにして神様も登場する「ひとひとがみ日々」(古山フウ著 全5巻 小学館)。神様が出てくるというと、枕詞に「いにしえの〜」とか、「昔々…」なんて言葉がついてくるイメージが強いと思うが、背景の時代は限りなく現代に近い。 舞台は、町から少し離れた「ミツカド山」の麓。隣には「フタツカド山」という二峰の山もあり、筑波山の周りの山々のような地形だ。そこの廃村に、人間の姿になった神々が暮らしている。石の祠(ほこら)の神のイシ、菊の神の菊など、個性的な能力を持った神々が登場する。 例えば、猯(まみ)と呼ばれる神はタヌキのように姿を自在に変えられる。たくさんの神が登場する中で、宝塚がお好きな方は、「ヤネ」という神に注目してほしい。しかし、その力は人間の姿になる前より衰えてはいるようだ。少し時間がたつと大けがが治り、神様と人間の狭間でチグハグな様子がかわいらしい。 「人間1年生感」の神々 彼らはなぜ自分たちが人間の姿になったのか、思い出せないまま時を過ごしている。元は人間が暮らしていた廃村に、人間の姿になった神様たちが工夫を凝らして生活する姿も「人間1年生感」があり、ほほ笑ましい。 体の作りは人間なので眠くもなるし、空腹にもなる。神の姿だった時ではすることの無かった食事をする。食材の調達は主に、物の怪たちが新月の際に開く市でそろえる。ここまで書くと本当に人間のようだが、市でのお代の支払いは、髪の毛数本だったり爪の先だったり、突然人間らしくない。 イタチやトカゲなどの姿をしている物の怪たちにとって、神様の体の一部というのは力のあるものらしく、お代をもらった物の怪が当たり前のように髪の毛を食べていて、こちらの喉に引っかかりそう。 筑波山がモデルの「フタツカド山」 食事をするシーンが何度もあるのだが、これら全ておいしそうなのも注目したい。山菜を使った煮物や、市で売っている冷やしアメ、ペンキの缶で沸かしたミソ汁まで様々な食べ物が出てくる。個人的にフキミソのおにぎりは確実においしいと思う。素朴で魅力的な料理の数々と、ほっこりする作画が相まってとてもお腹が空く。 筑波山をモデルにしたという山も「フタツカド山」として出てくる。立派な神社があり、登山客も多く、まさしく筑波山のようだ。神社があるのでこの山にも神様たちがおり、それぞれの山の神同士交流も描かれるのだが、これもまた人間(?)模様が渦巻いており、ほほ笑ましい。 冒頭でも記したが、ミツカド山の神々はなぜ人間の姿になったかは本人たちも覚えていない。人間に忌み嫌われ打ち捨てられてしまったのか、何か良からぬものが働いているのか。力があるとはいえ、人間の姿になる以前よりも弱くなっているということは、ゆっくりと消滅へ向かっているのかもしれない。優しい作画と少し暗さを感じるこのバランスが病みつきになる作品だ。(牛肉惣菜店経営) 【せお りえ】土浦市出身。飯村畜産(土浦市)の直営店iimura-ya(いいむらや、つくば市二の宮2丁目)店長。地域密着型の弁当・惣菜・精肉販売店に10年間従事。日々の店舗運営で、多様な年代、多様な価値観を持つお客様と接する中で培った人間観察眼を、マンガの選定に生かす。コラムでは、疲れた心にサプリとして、マンガで癒され明日への活力になる一冊を紹介していく。

掃いても、掃いても《短いおはなし》45

【ノベル・伊東葎花】 私は、イチョウの木でございます。神社の参道へと続く道に、たくさんの仲間と一緒に立っております。このあたりでは、少しばかり有名な並木道でございます。 青々と茂っていた葉は、秋が深まると黄金色に染まります。それはそれは素敵な散歩道になりますのよ。葉っぱたちは、風にはらはらと舞い落ちて、地面に黄色のじゅうたんを敷き詰めます。ため息が出るほど美しい晩秋の風景ですわ。 ところでこの春、神社の長男が嫁をもらいました。その嫁が、まあ、きれい好きと言いますか、風情がないと言いますか、せっかくの美しい葉っぱたちを箒(ほうき)で掃いてしまうんです。竹箒でザッ、ザッ、ザッ、と葉っぱを集め、ゴミ袋に入れるんです。何ともまあ、風情のない現代っ子でございます。 こちらとしても、負けるわけにはまいりません。 「おまえたち、あの女めがけて散りなさい」 私が命令すると、葉っぱたちは嫁をめがけて、まるで矢のように降りました。 「ああ、もうっ、掃いても、掃いてもきりがない」 嫁はとうとう掃くのをやめて、家に帰って行きました。勝ちました。 …と思ったのもつかの間、今度は、大きな熊手を持って現れたのでございます。あんなものでかき集められたら、たまったものではありません。私たちは、嫁がいなくなるまで待って、ふたたび葉っぱの雨を降らせました。負けるものですか。 そんなバトルが、数日続きました。嫁がどんなにきれいに掃いても、翌朝にはまた黄色のじゅうたんが敷かれます。それでも嫁は懲りもせず、毎日箒を持ってやってくるんです。こういうのを、イタチごっこというのかしら。 次の日は、朝から雨でした。よく降る雨でございます。並木道を、レインコートを着た小学生が走って来ました。通学路ではないけれど、おそらく学校までの近道なのでしょう。遅刻しそうなのか、赤い顔をして、一生懸命走っています。子供の長靴が葉っぱを踏んだ時、つるりと滑ってバランスを崩しました。 「まあ大変」 私は、とっさに枝を伸ばして、子供を抱き上げました。子供は、転ばずにすみましたが、よほど驚いたのでしょう。大きな声で泣きました。 それを聞きつけて、嫁が走ってまいりました。 「滑っちゃったのね。気をつけて。走っちゃダメよ」 優しく頭をなでて、女の子を見送りました。そして私の幹に手を当てて、誰にともなくつぶやいたのでございます。 「きれいなんだけど、滑るんだよね」 嫁は、黄色の葉っぱをひとつ拾いあげ、指で優しく汚れを落としたのでございます。 「雨が止んだら、また掃かなくちゃ」 あら、宣戦布告とは頼もしい。 でもね、ごらんなさい。もう葉っぱが、いくらも残っていませんの。もうすぐ12月ですもの。 「どうぞ、好きなだけお掃きなさい」 あら、私ったら…。どうやらこの嫁が、少しだけ好きになったようでございます。 (作家)