【コラム・斉藤裕之】マングローブの木炭は安いけど匂いがイマイチ…。この夏の山口での話。立ち寄った道の駅で地元産の木炭の袋を見つけた。山の中では煮炊きや暖を取るのに使うので、ひとつ試しに買ってみることにした。しばらくして、別の用事でその道の駅の近くを通ることがあったので、お土産にもう一袋と思って寄ってみると、定休日。がっかりしたが、ネットで検索するとすぐ近くに製造元があるではないか。
そこは材木や伐採林などを扱う大きな工場で、事務所に入ると女性社員の方が対応してくれて、段ボール入りの製品でもいいかと聞くので「御意」と答えると、別のところからガラガラと台車でブツを運んできた。その箱には赤い文字で「山頭火(さんとうか)」とある。
言わずと知れたご当地出身の俳人の名前であるが、木炭製品に山頭火とはこれ以上のネーミングもないもんだと思った。恐らく深い意味があるに違いない! 名前の由来はと、ネットで検索。あれ? 特に深い意味は…ない。ちなみに、山頭火は日本酒の銘柄やラーメン屋の屋号にも使われているようだ。
椋の木に鳩が十羽とまる
役所から名前のフリガナについてのハガキが来た。西洋に比べ、この国の名前の表記、読み方のバリエーションはほぼ無限で、近年特に自由奔放である。身近なところでは、生徒の名前はフリガナなしではほぼ判読不可能になった。
名簿のフリガナを見ては想像力豊かな漢字と読み方に感心することしきりだが、相変わらず生徒の名前はほとんど覚えられない。そんな中、「椋介」という名前が目に留まった。その由来を聞いてみると、「椋(むく)の木に鳥が集まるように人が集まってくるような人になって欲しいという願いから」名付けられたという。
「椋鳩十(むく はとじゅう)」という動物文学者に出会ったのは小学校の図書室だったか。随分と不思議な名前だと思いながら、「椋の木に鳩が十羽とまる…」に由来していることを知ったのはそう昔のことではない。「椋の木ねえ…いい名前だねえ…」
そろそろ「山頭火」の出番
ところで、長女のおなかが目立つようになってきた。来年早々に3人目が生まれてくる。どんな名前にするんだろう…。そんなこと考えながらパクと散歩していると、大きな椋の木の下に黒くなった実がぼたぼたと落ちている。この実が食べられるということを知ったのも近年のことだが、どうも食べられる気がしなくて、いまだに口にしたことがない。ちなみに、この木の下には十羽とはいかないが、つがいと思われる二羽の山鳩をよく見かける。
喉が腫れて熱があると思ったら、はやりの病。その後しばらくの間、コーヒーの匂いが鼻を突いて飲めずにいた。暑さがやっと秋の空気に入れ替わったころ、ようやく鼻と舌が元に戻ってきた。そろそろ山頭火の出番か。今年のサンマは久しぶりに安くて脂がのってうまいという。炭の香りと共に楽しもう。(画家)