自分は「ダメ」だと思った
美帆さんが不登校を経験したのは中学時代。2年生の夏休みを迎えるころからだった。体調を崩して休みがちになった。医療機関にかかったが、なかなか快方に向かわなかった。「みんな学校に行っているのに私は行けなくて、自分は『ダメ人間』かもしれないと思った。どうしていいかわからず本当に辛かった」と当時を振り返る。
学校の慣習にも馴染めなかった。ダンスが苦手なのに人前で踊らなければならなかった、反復練習では学ぶ意義が感じられないのに、同じように学ばないと怒られることもあった。「例えば、自分が好きな科学で実験レポートを書くとなれば、実験結果と関連づけて必要な漢字や数式を一緒に覚えることができる。私は全体のつながりの中で物事を学びたかった。その方がよく学べるのに、と思っていた。集団行動も苦手だった。学校では自分に合わないことをしなければいけない。精神的につらかった」
母親の真帆子さんは当初「給食くらい食べてくればいいのでは」と、娘の姿を見つめていた。だが、次第にそれは負担が大きいことだと感じると、科学好きの美帆さんに、つくば市内の研究所や博物館の見学を勧めたり、真帆子さん自身が取り組む地域の小学校で開く科学の出張教室の助手を頼んだりするなど、学校外の活動に目を向けるよう働き掛けた。

人前で話し自信になった
活動を続ける中で、美帆さんにとって大きなきっかけになる出来事があった。16歳になったころ、母親が毎年1度、講義を持っている福島県内の大学で、学生に向けて話をする機会を得たのだ。事情を知った大学関係者が協力した。美帆さんは、当時読んでいた経済に関する本を紹介することにした。人前で話すのは初めてのこと。事前に入念な準備を重ね、ドキドキしながら教壇に立った。話し終えると、拍手が湧き、さらに謝金まで出た。「自分のしたことでお金をもらったのは初めて。興味を持ってくれたのもすごくうれしかったし自信になった」と振り返る。
美帆さんは「学校に行かなければいけないという固定観念を外してみることで、楽になった」と言い、「フリースクールでもいいし、コミュニティスペースに出入りしてもいい。勉強の仕方はいくらでもある。もちろん、学校が合う子どももいる。その子にあった学び方を選択すればいいのでは」と話す。母親の真帆子さんは「不登校によって生じる問題は学習機会が減るということ。学習機会が減ると将来の選択肢が減ってしまう。学習機会をどこでつくるかということが大切になる」。

どこにいても話できる場所つくりたい
「今が一番楽しい」と島本さんは言う。その一方で、「もう一度、小学生からやり直すとなったら、そんな気力はない。1回目だから耐えることができたけど、2回目があったら無理かもしれない。それくらい当時は大変だった」と、不登校時の苦しみを語る。
これからの目標は、まずは大学に進学すること。そこでは一緒に活動できる仲間を作り、人間の心と体について学びたいと話す。フェルミカフェはこれからも続けていくつもりだ。今後はより専門的な相談サービスも展開していきたい。
「将来は、全国どこにいても話ができるオンラインスクールをつくれたらうれしい。不登校だったけど、大学に行ってこんなことができるよって示せたら、安心してくれる人が増えるかもしれないですよね」(柴田大輔)
◆交流スペース「フェルミカフェ」はつくば市二の宮1丁目9-5 ホワイトレジデンス201号室。開館時間は木・金は午後1時~6時、土・日・祝日は午前10時~午後5時。利用料金は1日当たり大人500円、学生は300円。フェルミカフェのホームページはこちら。