【コラム・岡田富朗】このほど、大東文化大学教授で成田山書道美術館(千葉県成田市成田)の非常勤学芸員を務めている髙橋利郎さんを訪ね、お話を伺いました。同美術館の開館は1992年ですが、髙橋さんが学芸員に着任したのは1999年のことです。
着任したころの収蔵点数は約2000点程度で、古いものでも江戸時代の作品でした。その後、近現代の書道作品を収集している美術館が少ないことを踏まえ、いずれ近現代書家の作品が必要になると見越して、今日まで収集してきたそうです。
収集作品には、作家が資料として持っていた古筆など、貴重なものも含まれており、現在では収蔵点数が約7000点に増加しました。近現代書道の重要性を浮き彫りにしたコレクションは、同美術館の大きな特徴になっています。
代表的な作品としては、古写経手鑑『穂高』、青山杉雨の『書鬼』、小山やす子の『伊勢物語屏風』、貫名菘翁の『茶香酔趣』、赤羽雲庭の『凛厳』などが所蔵されています。「赤羽雲庭の『凛厳』はその美しさで有名で、急いで引き取りに行った」とのことです。
「書道の技術は身体的な経験を通じてこそ知り得る。機械で美しい文字を再現するのとは大きく意味が異なり、人の手の動きや字を書く技術が、プロセスとして作品を見る人に感じさせることができる。日本では学校で書道の授業があり、一度は書を書く経験をした人が多いからこそ、書を見て美しいと感じられる文化がある」

書道への造詣が深かった漱石
最近、書道がユネスコの無形文化遺産候補として正式に提案され、その重要性が認められました。書道は、芸術作品にとどまらず、生活美術として日常に深く結びついています。
髙橋さんは「書道が歌舞伎や能などの伝統文化のようになってしまうのは違う。より身近なものであり、各家庭にさりげなく飾ることが日常であるような、書道文化として日本に残っていってほしい」と話してくれました。
近年、前衛書と呼ばれる書家たちの中で、井上有一や篠田桃紅などの作品は、美術市場における草間彌生などの作品と同様、世界的に注目が高まっています。
最後に、夏目漱石の書道への造詣の深さを示す本として、漱石の代表作『草枕』を教えてくれました。この本では、文房四宝(ぶんぼうしほう=筆、すずり、紙、墨)について触れられています。最近、カナダのピアニスト・作曲家のグレン・グールドを扱ったラジオ番組で、彼も漱石の『草枕』を愛読していたことを知りました。(ブックセンター・キャンパス店主)
◆「幕末明治の下谷文人展」が4月26日~6月15日 、成田山書道美術館で開催されます。