日曜日, 6月 15, 2025
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「サツマイモの神様」白土松吉が名誉市民に《邑から日本を見る》179

【コラム・先﨑千尋】茨城県内で「サツマイモの神様」と呼ばれてきた白土松吉に、那珂市から名誉市民の称号が贈られた。那珂市は1月に市制施行20周年の記念式典を開いたが、この席で、曽孫の白土史生さんに先﨑光市長から名誉市民証が渡された。同市の名誉市民は5人目で、民間人としては初めて。

松吉は1881(明治14)年に那珂郡勝田村(現ひたちなか市)に生まれ、同郡湊町(現ひたちなか市)の白土家の養子になり、水戸農学校(現水戸農業高校)を卒業後、那珂郡役所に入り、同郡農会技手を兼務した。農会とは、農業の技術的・経済的発展と農業改良をめざした組織。

那珂郡は畑作地帯で、陸稲が盛んだった。陸稲は、夏に雨が降らないと収穫が皆無になることもあり、不安定な作物だった。松吉はこれを救うのはサツマイモだと考え、サツマイモの増収栽培の研究を始めた。

それと同時に、同郡前渡村村長の大和田熊太郎とともに、冬場の農閑期の副業として甘藷(かんしょ)蒸切干(干し芋)の製造を農家に奨励していった。郡内の篤(とく)農家や農学校、小学校にサツマイモの試験地、試作地を設け、増収技術の研究を重ねた。

目標は千貫(3.75トン)取り。当時の平均反収の3倍だった。研究の甲斐(かい)あって、1926年にとうとう千貫増収法を確立した。その後も、技術の合理化、作業の簡略化などの工夫を重ね、1937年に、1農家3人の労働力で1~2ヘクタールのサツマイモ栽培ができる「千貫取り白土式甘藷栽培法」を確立した。

松吉が研究を始めて30年の歳月が流れ、この年に松吉は『甘藷作論及栽培法』(水戸市協文社)を出版している。

白土松吉顕彰碑

「いも類大増産運動」が始まる

戦争末期の1944年、国は「いも類大増産運動」に取り組み、サツマイモの苗を2000万本首都圏に送る計画を立てた。東茨城郡内原村(現水戸市)の日本国民高等学校などで実施に移し、松吉はその指導に当たった。

仕事に没頭し、湊町の自宅にはほとんど帰らず、農会事務所近くの旅館で生活し、身なりは一切構わず、どこに行くのもはだしと自転車。サツマイモ増産のために寝食を忘れ、東奔西走の毎日。名誉や地位、利益には見向きもしなかった。松吉の素朴な人柄とひょうきんな行動は農家の人に愛され、大臣や知事でもすべて「君づけ」で呼んだと伝えられている。

48年に第一線を退き、弟子たちが用意してくれた白土甘藷研究所(那珂郡芳野村、現那珂市)で晩年を過ごした。

サツマイモ、干し芋だけでなく、那珂川沿岸の農業用水の一つ、小場江堰(せき)改良工事にも私財を投じ、大きな功績を上げている。55年には、甘藷栽培の改良と水田灌漑(かんがい)用水路の新設の功績により黄綬褒章を受章し、亡くなる直前の56年11月、当時の那珂町役場構内に白土松吉翁顕彰碑が建立された。

私は2012年に松吉の評伝『白土松吉とその時代』(茨城新聞社)を出版していることもあり、松吉が那珂市の名誉市民に選ばれたことを自分のことのようにうれしく思っている。(元瓜連町長)

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難民支援へ連帯 つくば市役所を青色にライトアップ

6月20日は世界難民の日 国連が定めた「世界難民の日(6月20日)」を前に12日夜、つくば市役所本庁舎東側壁面が4灯の青いライトで照らされた。ライトアップの期間は12日から29日まで、毎日夜7時から10時まで点灯される。 世界難民の日は、難民の保護と支援に世界的な関心を高めることを目的に2000年12月4日に国連総会で決議された。各地の建物を国連のシンボルカラーである青色でライトアップすることは、難民支援への連帯を示す。世界約130カ国で難民支援などに取り組む国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の駐日事務所が、この日に合わせて呼び掛けた。 県内ではつくば市役所のほか水戸芸術館(水戸市)が参加している。ほかに札幌市時計台(札幌市)、鶴ケ城天守閣(福島県会津若松市)、都庁第一本庁舎(東京都新宿区)、東寺(京都市)、熊本城天守閣(熊本市)など全国67カ所が青色にライトアップされる。また期間中は、国連大学(東京都渋谷区)やの佐賀県庁旧館(佐賀市)など全国6カ所で「世界難民の日こいのぼり」が掲揚される。 つくば市は今年5月、UNHCRが進める国際キャンペーン「難民を支える自治体ネットワーク」に加入し、5月18日に市内で行われた科学と国際交流イベント「つくばフェスティバル2025」内で同ネットワークへの加入署名式が行われ、UNHCR駐日主席副代表代行の桒原妙子さんと五十嵐立青市長が同ネットワークへの賛同表明文に署名した(5月19日付)。昨年、同市は世界難民の日に合わせて、2021年に開催された「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」に参加した難民アスリートの活躍やヒューマンストーリーを収めた「難民アスリート写真展」や、市国際交流協会主催の国際理解講座「世界お茶のみ話」で「難民ワークショップ」を開催するなど、難民支援への理解啓発に取り組んできた。 企画を担当する同市国際都市推進課は「今回の企画を通じて多くの市民が難民問題に関心を持つ機会につなげたい」とし、「つくば市には多様な国や地域出身の方が暮らしている。誰にとっても暮らしやすい街にしていきたい」とする。一方で「他の国々には、さまざまな環境の中で現地に留まらざるを得ない方々もいる。そういった方々へ、UNHCRを通じて今後も支援をしていきたい」と思いを語った。今回のライトアップにかかる事業費はライトの設置費など約50万円という。(柴田大輔)