【コラム・坂本栄】大井川和彦知事の県政報告会が2月18日、霞ケ浦文化体育館(土浦市大岩田)で開かれました。知事は3期目への出馬をまだ表明していませんが、今夏の知事選を意識した1時間を超える講演になり、7年半の実績を説明する話の締めはTX土浦延伸でした。
水戸とつくばの経済圏をつなぐ
講演の最後の箇所を文字に起こして少し補足すると、以下のような内容です。つくば止まりのTXを土浦駅まで延ばすことのメリット、延伸実現に向けての手順が中心です。
「TXルートの土浦駅延伸は(学識者ら)第三者に検討してもらい客観的に決めた。私も土浦産まれだから(土浦延伸に)忖度(そんたく)しなかったとは言わない(笑)。そう言ってはいけないのかな?(笑)。大事なのはTXをJR常磐線に接続すること。それによって水戸・ひたちなか地域とつくば・土浦地域が結びつく。県の2大経済圏がつながる」
「県の行政を担っていて思うのは、『つくばはつくば』『水戸は水戸』というふうに分断してしまっていること。両公共交通機関をつなぐことで、つくばの人も水戸でお酒を飲んで電車で帰るとか、逆に仕事で水戸の人がつくばに行くとか、往来や交流が増える。こういう効果が非常に高い。これは茨城県にとって大きい」
「そろそろ(県によるフェーズⅠ)調査が終わるので、これから政府や関係都県(東京、埼玉、千葉)に説明を始める。大事なのはタイミング。東京延伸と一緒に土浦延伸を決めてもらうことが大事。いまTXは秋葉原駅で止まっている。これを東京駅に延ばし(都が計画している)臨海地下鉄につなげば羽田空港まで行ける。そういう話が進んでいる。そのタイミング(国交省の交通政策審議会による東京延伸答申)で勝負をしようと思っている」
「東京延伸と一緒に土浦延伸を(審議会に)持ち出すことが勝利の秘訣(ひけつ)。(茨城)単独で土浦延伸だけをやると皆(東京、埼玉、千葉)乗ってこない。茨城だけのためなら自分でお金を出せと言われてしまう。東京延伸のタイミングで、茨城も東京延伸に賛成するから土浦延伸も一緒にやってくれと持っていくつもりだ」
国交省・交通政策審が勝負の場
1週間後の2月25日、茨城県は「TX延伸構想―県の事業計画素案」(2月26日付、県HP)を公表しました。知事の県政報告を各種データで補強したものです。
タイトルは素案と控えめですが、東京駅延伸と土浦駅延伸をセットで進めることがいかに望ましいかを説明する内容になっています。ポイントは、一体整備の費用は3070億円だが27年で元が取れる(累積資金収支黒字転換)という試算に対し、土浦単独でも1320億円が必要で元を取るのに43年かかるという試算です。
分かりやすく言うと、一体整備ならば茨城の負担は767億円で済むのに(茨城、東京、千葉、埼玉で3070億円を均等負担すると仮定)、単独整備だと茨城だけで1320億円負担しなければならないという想定です。これでは一体延伸で勝負せざるを得ません。
素案では、土浦延伸について①開業目標は2045年②延長距離は10キロ③つくば~土浦間の駅は1つ④所要時間は9分⑤JR土浦への乗換時間は4分―などの概要を示し、その効果として①東京からの新たな人の流れを創出②つくばと水戸の2大経済圏の交流拡大③自動車に代わる公共交通サービスの向上④土浦延伸による茨城の一層の飛躍―が期待できるとしています。効果の②は知事による県政報告の肝でした。
延伸は大井川知事の政治案件
162「TX土浦駅接続計画…」(2023年7月18日掲載)では、土浦延伸実現に向けての県の作戦計画と知事の政治戦略を取り上げました。県の計画はフェースⅠ(たたき台作成)→フェーズⅡ(調整と磨き上げ)→フェーズⅢ(計画の総仕上げ)ですが、素案はフェーズⅠのひとつです。フェーズⅡは知事の3期目前半、フェーズⅢは3期目の後半(交通政策審で決定?)に重なります。
国交省の審議会で双方延伸を決めてもらうには知事の高度な政治工作が必要になるでしょう。TX土浦延伸は知事の政治案件でもあるわけです。(経済ジャーナリスト)