水曜日, 3月 12, 2025
ホームつくばもっと⾃由に「まぜこぜ」社会を 東ちづるさん つくばで映画上映

もっと⾃由に「まぜこぜ」社会を 東ちづるさん つくばで映画上映

21日から

全盲の落語家、ダウン症のダンサー、小人(こびと)症の手品師、ドラッグクイーン−。 

自身の特性を生かして国内外で活躍する「マイノリティ・パフォーマー」たちが出演する映画「まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり~」が21日から、つくば市下原、つくばユーワールド内の シネプレックスつくばで始まる。作品を企画・構成・キャスティング・プロデュースしたのは、俳優の東ちづるさん。制作は、東日本大震災をきっかけに東さんが立ち上げ、代表を務める一般社団法人「Get in touch(ゲットインタッチ)」が担った。表現活動を通じて、すべての人が違いを超えて自由に暮らせる「まぜこぜ」の社会をめざす同団体にとって、初めての映画作品となる。

映画は、東さんが座長を務めるパフォーマンス集団「まぜこぜ一座」が2023年に上演した舞台作品「歌雪姫と七人のこびとーず」の打ち上げ会場を舞台に進むドラマ作品。控え室から響く悲鳴に座員たちが駆けつけると、息絶えた座長の東さんの姿が。そこから、容疑者となった座員たちの本音があふれ出す。マイノリティとして今の日本に生きる彼らが抱く疑問や怒りを、ユーモアとともに笑いに変える。見る人に「まぜこぜの社会」とは何かを問いかける「社会派コメディサスペンス」だ。

映画のチラシ=Get in touch提供

東日本大震災、避難所で起きたこと

映画を制作した「Get in touch」の始まりは2011年。東日本大震災がきっかけだった。東さんは、被災地で起きたことが忘れられないと言う。

「避難所で、マイノリティーの人たちが追い詰められている現状を聞いた。車いすの人が『ここはバリアフリーじゃないから、他の避難所に行かれたらいかがですか?』とやんわり言われたり、パニックを起こした障害のある子どもを怒る人がいたり、障害のある子を持つ家族が避難所に入るのを遠慮して車で過ごしたり。そういうことがたくさんあった。でも、全くニュースにならなかった」

震災後、復興に向けた前向きな物語がメディアで伝えられる中で、置き去りにされる人たちがいた。「ニュースにして欲しい」とメディア関係者に訴えても、「デリケートなことだから」と受け入れられなかったという。

「『デリケート』ってなんだろうと思った。マイノリティーの人たちをデリケートな存在にすることで、この社会にいないものにしているんじゃないか。避難所での出来事は、今の日本社会を最もよく表していると感じた」

震災直後、東さんは、被災地への支援を訴えるアート活動をする障害者に協力し、被災地の福祉施設を支援するなどの活動を展開した。さらに、アートや音楽、映像、舞台などのエンターテインメント活動を通じて、違いを超えて多くの人がつながっていこうと団体を立ち上げ、「つながり」を意味する「Get in touch」と名付けた。法人化したのは2012年だ。

「私たちの活動は、見る人をワクワクさせ、楽しい気持ちにさせるエンタメにしたい。エンタメにして、人を集めて、楽しむ。でも、帰り際はモヤモヤさせる。結果的に、みんなが知ってしまう。笑いをとりながら、見る人に考えてもらうものを作ろうと思った」

映画の一場面=Get in touch提供

共生社会の実現目指し

今の社会の問題点を東さんは「マジョリティーが作ってきた社会」にあるとし、「建物や道路、どれ一つとっても、見えない人、聞こえない人、歩けない人を想定していない」と指摘する。それは自身が病を患った時にも感じたことだと話す。2020年、東さんは出血性胃潰瘍を発症し、治療を受けている。

「私が自分の病気を公表すると、取材に来る人の中に、私を泣かせようとする人がいた。可哀想な人をつくろうとしたのだと思う。マジョリティーが無自覚に、都合のいいようにつくってきた社会だから、マイノリティーは可哀想、気の毒、守らなければいけない人たちにしてしまう。気持ちが悪いと思った。そんなことを吹き飛ばしたいという思いがどんどんふくらんできた。そんな思いもあって、マイノリティ・パフォーマーの彼らと一緒に面白いものを作ろうと、みんなでいろいろな話をしてきました」

Get in touchが企画するイベントで必ず行っているのが、手話通訳者をつけるなど障害への配慮をすることだ。「私たちの活動には、いつも手話通訳をがっつりつけている。これが、みんなが楽しめるということ。スタンダードにならなければいけないですよね」と東さんは言う。今回の映画でも、目や耳が不自由でも映画を楽しめるよう、バリアフリー字幕や音声ガイド、デジタルパンフレットを用意する。

「是非、気軽に来てください。お得で、楽しく、面白く、見る人の常識や普通を覆す作品です。笑いや感動、気づきだけでなく、見終わった後に残る『モヤモヤ』を、是非、持ち帰って欲しい」と話す。(柴田大輔)

◆映画「まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり〜」はつくば市下原370-1 つくばユーワールド内 シネプレックスつくばで21日(金)~27日(木)まで、上映時間は午後6時から。初日は上映後に、出演者で声優の三ツ矢雄二さんと監督の齊藤雄基さんによるアフタートークイベントが開かれる。料金は一律1500円(税込)で映画パンフレット付き。バリアフリー字幕、音声ガイド、デジタルパンフレットを用意する。アフタートークには手話通訳者がつく。詳細は「まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり」公式サイトへ。

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

0 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img
spot_img

最近のコメント

spot_img

最新記事

新たに5課で残業代未払い つくば市 全庁調査結果

生活保護業務などを担当するつくば市社会福祉課職員に対し、残業代(時間外勤務手当て)と特殊勤務手当ての未払いがあった問題を受けて(24年5月9日付)、他の課にも同様の未払いなどがなかったか、同市が昨年6~7月に全庁的な調査を実施した結果、新たに社会福祉課以外の5つの課で残業代未払いなど不適正な労務管理があったことがわかった。12日の市長定例会見で明らかにした。 市人事課によると全庁調査の結果、不適正な労務管理として職員から「(時間外勤務を)1時間以上やらないと(手当てが)付かない」「夜7時以降(の勤務)でないと付かない」「所属長に(時間外勤務手当ての)申請が認められない」など課の慣習や所属長の認識不足に関する回答が寄せられたという。 全庁調査は昨年6~7月、非正規職員を含む約3900人を対象に、実名で回答することを条件に庁内のネットワーク回線でアンケート調査を実施し、1203件の回答があった。そのうち不適正な労務管理があったと回答した職員にヒヤリングなどを実施し、新たに5つの課で残業代の未払いがあったとした。 今後は5つの課の職員を対象に、法的に未払い分を請求できる過去3年間にさかのぼって、対象人数や未払い時間などについて調査するとみられる。5つの課の名称は現時点で未公表。 一方、市社会福祉課職員に対する特殊勤務手当てと残業代未払いのうち(25年3月6日付)、まだ支払われていない残業代の支払い対象者は14人だとした。支払い時期について市人事課は、25日が最終日の市議会2月会議に未払い金の遅延損害金の議案を追加提案するのは難しいとし、できるだけ早期に支払いの手続きを進めたいとするにとどまっている。(鈴木宏子)

「楽しむことを諦めないで」インクルーシブ映画上映会 30日 つくばで

大きな声を出しても、動き回ってもOK 病気や障害を理由に、楽しむことを諦めないでー。そんな思いから生まれた「AYAインクルーシブ映画上映会 」が30日、つくば市稲岡、イオンモールつくば内の映画館 USシネマつくばで開かれる。上映作品は、映画ドラえもんシリーズ45周年記念作品の「のび太の絵世界物語」。イベントを企画したのは、医療的ケアが必要な重い病気や障害のある子どもと家族らがスポーツや芸術、文化を体験する場を提供するNPO法人AYA(東京都)だ。代表理事で医師の中川悠樹さん(41)は「会場では大きな声を出しても、じっとしていなくてもいいし、医療機器のアラーム音が鳴っても大丈夫。医療従事者もいる。大きなスクリーンで見る映画は絶対に楽しいはず」と来場を呼び掛ける。 体験を諦めざるを得ないのは社会課題 AYAは2022年の団体設立以来、「健常の子どもが体験することを、病気や障害がある子どもにも体験してもらいたい」という思いから、スポーツ観戦や、小笠原諸島での海水浴等、多数のイベントを企画してきた。映画上映会は、過去の企画に参加した病気を持つ子の母親の声がきっかけだった。 「2000円握りしめて劇場に行けば映画が楽しめる、と言うのが一般的な感覚。でも私たちの社会には、周りの環境が整わずに映画にすらいけない人がたくさんいる」と中川さん。理由は、病気や障害の重さや、スロープやバリアフリートイレの有無だけでない。大声が出る、歩き回ってしまうなどの特性や、人工呼吸器のアラーム音、吸引機の機械音などが周りの迷惑になるのでは、という不安からくる遠慮があると言う。「『これがしたい』と思うことすら諦めている当事者や家族がいる。子どもたちがいろいろな体験を諦めざるを得ないのは社会課題」だと中川さんは指摘する。 上映会ではあらかじめ参加者に「医療機器のアラームが鳴る」「声を出したり動き回る」ことがあると周知し、歩き回っても足元が見えるよう照明を明るめに設定する、医療従事者を最低1人必ず会場につけるなどし、参加者が安心して映画を楽しめるよう配慮する。 環境さえ整えば体験できる 2023年に神奈川県川崎市で最初の上映会を開催した。その後、協力の輪が広がり、24年3月から6月にかけて「AYAインクルーシブ上映会2024春」を開き、全国11都府県で13回の上映会を実施し、延べ2056人が参加した。同年8月から10月の上映会では12劇場で約2000人が来場した。今年1月から3月初旬にかけても全国10か所で映画「モアナと伝説の海2」を上映した。参加者からは「家族で映画館に行けると思っていなかった」「兄弟にも我慢させてたけど、初めて家族で行けた」などの感想が寄せられているという。今回の上映会は、3月22日から6月15日にかけて、つくばを含む全国22か所で開催する予定だ。 中川さんは「いろいろなことを子どもに体験させたいと思う親は多いはず。体験する環境が社会に整っていないのが、今」だと話す。その上で「実際に映画を見て楽しんでいる姿を劇場の人に見せることで、劇場をより使いやすいものにしたいと思ってくれれば。実際に『これ、またやりましょう』と言ってくれる劇場の方もいる。病気や障害のある人を受け入れる事業者のハードルを下げることも我々の役目」だと話す。 「病気や障害を理由に諦めてしまう体験はゼロにしていきたい。周りの環境さえ整えば、病気、障害があっても体験できることはある。私たちの活動がきっかけになり、当事者や家族の方たちが社会に参加するきっかけになれば」と中川さんは思いを語る。(柴田大輔) ◆「AYAインクルーシブ映画上映会 in つくば」は3月30日(日)午前10時から上映開始。場所は、つくば市稲岡66-1イオンモールつくば2F、USシネマつくば。料金は、車いす席は全年齢1000円、一般席は3歳以上が1000円。2歳以下の子どもは保護者の膝上で鑑賞の場合は無料。事前申し込み制で、NPO法人AYAの公式LINEより申し込む。締め切りは19日(水)。応募多数の場合は抽選となり、抽選結果は24日(月)に応募者にLINEで連絡する。詳細は公式イベントページへ。

武谷三男著「市民の論理と科学」《ハチドリ暮らし》47

【コラム・山口京子】前回コラム(2月11日掲載)で触れたように左足を骨折して、病院に行くほかは家の中での生活となりました。図書館にも本屋にも行けず、家にある本を読み直しています。久々に本棚を見ると、古い本が並んでいます。結婚、引っ越し、リフォームの際にかなり処分しましたが、捨てられなかった本です。あとで読み直そうとしたのでしょう。本棚に眠っていた本を手に取ってみました。 その中の1冊を取り上げます。1975年に出版された「市民の論理と科学」(武谷三男著、筑摩書房)です。「人権の哲学」のために、日本的無責任の論理を生みだすもの、技術とはなにか、市民の論理と科学、という4章から成っています。 著者が理論物理学者・哲学者だと略歴で知りました。当時の公害と闘う市民運動を支援していて、運動の根本は人権を守る闘いであると述べています。人権の論理を据えることで、様々な出来事がどんなふうに見えてくるのか語っています。 技術革新については、戦時中の戦争技術を平和的利用に転換することが基本的な性格であり、そもそも技術は乱暴な性格を持っている、現代技術は大量生産・消費の上に乗っかっており、エネルギーも大量に消費する、そうしたことを踏まえると戦時のやり方を戦後産業にそのまま持ってきたわけで再考の余地がある―と。 公害と地球汚染への視点 安全性という概念を元にすること、公害は結果であるから起こってしまったらもうおしまいだ、安全が確認されていないことはやってはいけない、疑わしいものは止めろというのが人権を守る原則だ―と。公害や労災の認定については、その原因以外で病気になったと証明ができない限り、その公害が原因であると認定するのが人権の立場である―と。 地球汚染については、GNP(国民総生産)に比例して地球が汚染されたのだから、GNPに比例した世界税を徴収して、まだ汚染に加わっていない諸国民の発展のために使え―と。「人権という言葉と実態を掘り下げ、市民として活動して切り開こう」ということでしょうか。これからの社会や人間を考えるにあたり、深い意味が込められた本だと思いました。(消費生活アドバイザー)

住民15人が最高裁に上告 鬼怒川水害訴訟 

2015年9月の鬼怒川水害で、常総市の住民が甚大な被害に遭ったのは国交省の河川管理に落ち度があったためだなどとして、住民らが国を相手に起こした国家賠償訴訟で、二審判決を不服とした住民15人(法人1社を含む)が11日、最高裁に上告した(2月26日付)。 2月26日に出された二審の東京高裁判決は、住民側が、高さの低い堤防の改修を後回しにしたことが水害被害を受けた上三坂地区の堤防決壊につながったと主張したのに対し、「国の改修計画は不合理とは言えない」とし、国に責任があるとした住民の訴えを退けた。 一方、越水による水害被害を受けた若宮戸地区については、住民側が、太陽光パネル設置を目的に民間事業者が砂丘林を掘削し、自然堤防となっていた砂丘林から堤防の機能が失われたのは、同地域を「河川区域」に指定し開発を制限しなかった国に責任があると主張したのに対し、一審は住民の主張を認め、若宮戸地区の住民9人に約3900万円の損害賠償を支払うよう国に命じる判決を出した。これに対し住民も国も双方が控訴し、二審も国の責任を認めたものの、住民への賠償金額が一審から約1000万円低い約2850万円となった。 住民側の只野靖弁護士は上告審について「上三坂地区は国の責任が認められていないので、そこを争う。若宮戸地区は責任は認められたが賠償金額を削られたのは不当だと主張する」と説明した。 原告団共同代表の片岡一美さん(71)は「国民の生活を守るのが国や司法の役目」と話し、「(堤防が低かった)上三坂地区の堤防が真っ先に改修されていたら、私たちのような被害者は生まれていなかったし、亡くなる人もいなかった」とし、「一番怖いのは堤防が決壊すること。決壊する原因の9割は、越流(水があふれること)だ。常識的に考えれば、堤防で問題になるのは幅より高さで、低いところから改修するというのは単純明快。国のやっている河川行政はおかしい」と上告審への思いを語った。 鬼怒川水害では、豪雨により常総市内を流れる鬼怒川の堤防の決壊や越水があり、市内の約3分の1が浸水した。同市では、災害関連死を含めて15人が亡くなり、住宅被害は全壊53軒、半壊5120軒、床上浸水193軒、床下浸水2508軒に及んだ。(柴田大輔)