月曜日, 12月 15, 2025
ホームつくばもっと⾃由に「まぜこぜ」社会を 東ちづるさん つくばで映画上映

もっと⾃由に「まぜこぜ」社会を 東ちづるさん つくばで映画上映

21日から

全盲の落語家、ダウン症のダンサー、小人(こびと)症の手品師、ドラッグクイーン−。 

自身の特性を生かして国内外で活躍する「マイノリティ・パフォーマー」たちが出演する映画「まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり~」が21日から、つくば市下原、つくばユーワールド内の シネプレックスつくばで始まる。作品を企画・構成・キャスティング・プロデュースしたのは、俳優の東ちづるさん。制作は、東日本大震災をきっかけに東さんが立ち上げ、代表を務める一般社団法人「Get in touch(ゲットインタッチ)」が担った。表現活動を通じて、すべての人が違いを超えて自由に暮らせる「まぜこぜ」の社会をめざす同団体にとって、初めての映画作品となる。

映画は、東さんが座長を務めるパフォーマンス集団「まぜこぜ一座」が2023年に上演した舞台作品「歌雪姫と七人のこびとーず」の打ち上げ会場を舞台に進むドラマ作品。控え室から響く悲鳴に座員たちが駆けつけると、息絶えた座長の東さんの姿が。そこから、容疑者となった座員たちの本音があふれ出す。マイノリティとして今の日本に生きる彼らが抱く疑問や怒りを、ユーモアとともに笑いに変える。見る人に「まぜこぜの社会」とは何かを問いかける「社会派コメディサスペンス」だ。

映画のチラシ=Get in touch提供

東日本大震災、避難所で起きたこと

映画を制作した「Get in touch」の始まりは2011年。東日本大震災がきっかけだった。東さんは、被災地で起きたことが忘れられないと言う。

「避難所で、マイノリティーの人たちが追い詰められている現状を聞いた。車いすの人が『ここはバリアフリーじゃないから、他の避難所に行かれたらいかがですか?』とやんわり言われたり、パニックを起こした障害のある子どもを怒る人がいたり、障害のある子を持つ家族が避難所に入るのを遠慮して車で過ごしたり。そういうことがたくさんあった。でも、全くニュースにならなかった」

震災後、復興に向けた前向きな物語がメディアで伝えられる中で、置き去りにされる人たちがいた。「ニュースにして欲しい」とメディア関係者に訴えても、「デリケートなことだから」と受け入れられなかったという。

「『デリケート』ってなんだろうと思った。マイノリティーの人たちをデリケートな存在にすることで、この社会にいないものにしているんじゃないか。避難所での出来事は、今の日本社会を最もよく表していると感じた」

震災直後、東さんは、被災地への支援を訴えるアート活動をする障害者に協力し、被災地の福祉施設を支援するなどの活動を展開した。さらに、アートや音楽、映像、舞台などのエンターテインメント活動を通じて、違いを超えて多くの人がつながっていこうと団体を立ち上げ、「つながり」を意味する「Get in touch」と名付けた。法人化したのは2012年だ。

「私たちの活動は、見る人をワクワクさせ、楽しい気持ちにさせるエンタメにしたい。エンタメにして、人を集めて、楽しむ。でも、帰り際はモヤモヤさせる。結果的に、みんなが知ってしまう。笑いをとりながら、見る人に考えてもらうものを作ろうと思った」

映画の一場面=Get in touch提供

共生社会の実現目指し

今の社会の問題点を東さんは「マジョリティーが作ってきた社会」にあるとし、「建物や道路、どれ一つとっても、見えない人、聞こえない人、歩けない人を想定していない」と指摘する。それは自身が病を患った時にも感じたことだと話す。2020年、東さんは出血性胃潰瘍を発症し、治療を受けている。

「私が自分の病気を公表すると、取材に来る人の中に、私を泣かせようとする人がいた。可哀想な人をつくろうとしたのだと思う。マジョリティーが無自覚に、都合のいいようにつくってきた社会だから、マイノリティーは可哀想、気の毒、守らなければいけない人たちにしてしまう。気持ちが悪いと思った。そんなことを吹き飛ばしたいという思いがどんどんふくらんできた。そんな思いもあって、マイノリティ・パフォーマーの彼らと一緒に面白いものを作ろうと、みんなでいろいろな話をしてきました」

Get in touchが企画するイベントで必ず行っているのが、手話通訳者をつけるなど障害への配慮をすることだ。「私たちの活動には、いつも手話通訳をがっつりつけている。これが、みんなが楽しめるということ。スタンダードにならなければいけないですよね」と東さんは言う。今回の映画でも、目や耳が不自由でも映画を楽しめるよう、バリアフリー字幕や音声ガイド、デジタルパンフレットを用意する。

「是非、気軽に来てください。お得で、楽しく、面白く、見る人の常識や普通を覆す作品です。笑いや感動、気づきだけでなく、見終わった後に残る『モヤモヤ』を、是非、持ち帰って欲しい」と話す。(柴田大輔)

◆映画「まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり〜」はつくば市下原370-1 つくばユーワールド内 シネプレックスつくばで21日(金)~27日(木)まで、上映時間は午後6時から。初日は上映後に、出演者で声優の三ツ矢雄二さんと監督の齊藤雄基さんによるアフタートークイベントが開かれる。料金は一律1500円(税込)で映画パンフレット付き。バリアフリー字幕、音声ガイド、デジタルパンフレットを用意する。アフタートークには手話通訳者がつく。詳細は「まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり」公式サイトへ。

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

不適切な生活保護行政 告発者を表彰したら?《吾妻カガミ》213

【コラム・坂本栄】つくば市の不適切な生活保護行政について「今年内にも(関係職員・管理職への)処分が出るのか」と市長に聞いたところ、「年内でなく年度内」とのことでした。同行政の部署にいた職員が不適切事案の具体例を内部告発し、市が発表したのが2024年春。そして市が調査報告書をまとめたのが2025年夏。問題表面化から関係者処分まで2年もかかるとは悠長な話です。 職員酷使、業務怠慢、ミス隠し 内部告発の詳細については市職員の請願書(市の公益通報受理が遅れたので市議会に請願)を読んでください。あらましは192「…市政の実態」に書きましたが、さわりを紹介すると▽問題点を指摘したら管理職が隠蔽してしまった▽やってはいけない現金支給が行われていた▽業務上の不正を指摘すると職場で「村八分」にされた―といったことが起きていたそうです。 市の調査報告書を読むと、生活保護行政の様相がよく分かります。209「不適切のデパート…」で超要約したように、▽時間外勤務や特殊勤務の手当てがきちんと払われていなかった▽生活保護者への過払いを埋める会計処理(国庫への請求)を怠っていた▽県の監査に対し「現金給付はしていない」と口裏を合わせていた―など、杜撰(ずさん)な行政の実態が報告されています。 生活保護は国民へのセーフティネットであり、憲法でも「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(25条)が保障されています。こういった基本中の基本の行政なのに、単純ミス(支給基準の誤判断)だけでなく、職員酷使(関連手当ての未払い)、業務怠慢(国庫への請求見送り)、ミス隠し(県監査への虚偽報告)が横行していたとは驚きでした。 担当職員・管理職、市幹部への処分がどうなるか、要注目です。処分は仕事上の責任を明確にして再発抑止を図るものですが、これとセットで、不適切事案を暴露することで業務正常化に貢献した告発職員を表彰したらどうでしょう? 内部告発をプラス面に生かして役所を活性化させれば、市民サービスも向上します。実現すれば、役所マネージメントの新しいモデルになると思います。 究極の不適切生活保護対策は? 請願書と調査報告を読むと、つくば市では管理職クラスの仕事振りに問題が多いことが分かります。その箇所にアンダーラインを引きながら、つくば市と土浦市の合併を図り、「新つくば市」を中核市(当時の人口要件は30万以上)にしようとしていた前市長の非公式発言を思い出しました。 合併協議が進んでいたころ、前市長はある懇親の席で、6町村合併で誕生したつくば市の職員を市政経験が豊富な土浦市の職員に教育してもらいたい―といった趣旨のことを話していました。2市合併の目標として中核市実現を掲げながら、土浦市の豊富な行政経験をつくば市の職員に学ばせ、市の行政レベルをアップしたいとの思惑もあったようです。 つくば市民の反対で合併は実現しませんでしたが、「不適切行政」改善策は他にも考えられます。組織引き締めのために関係職員・管理職・市幹部を処分するはその一つであり、内部告発に踏み切った職員を表彰して役所内を刺激するのも一策でしょう。 究極の不適切行政対策は、生活保護業務そのものを県に返上してしまうことです。行政力に限りがある村役場や町役場は生活保護の実務を県に任せています。つくば市が業務返上という奇策(町村並み市政宣言)に出れば、全国の耳目を集めるでしょう。来年の自治体ニュースの上位に入ることは間違いありません。冗談はこのぐらいにして(内部告発奨励は真面目)、皆さま、よいお年をお迎えください。(経済ジャーナリスト) <注> 青字部をクリックすると関係文書やコラムが読めます。

環境にやさしい素材で 子供たちがアート体験 つくば スタジオ’S

筑波大学で芸術などを専攻する学生に教わりながら、子供たちがさまざまなアート技法を体験するイベント「冬のキッズアート体験2025」が13日、つくば市二の宮のギャラリー「スタジオ’S」で開かれた。普段ごみとして捨てられてしまったり、リサイクル資源となる紙パックやトイレットぺーバーの芯、環境にやさしい再生紙を使った工作体験などが催された。 関彰商事(本社:筑西市・つくば市、関正樹社長)が筑波大学芸術系の協力で、9年前の2016年から毎年冬と夏に開催している。昨年からつくば市と県つくば美術館がこの企画を応援。同市とSDGsを推進する包括連携携協定が締結されていることから、環境にやさしい素材が使われるなどした。 紙パックを使った工作では、子供たちが、紙パックに布シートを貼り付けて、さらにクリスマスツリーのように飾り付けるバッグ作りに挑戦した。トイレットペーパーの芯では昆虫やコースターなどを作った。再生紙は、関彰商事の廃棄書類から作られた再生紙でクリスマスツリーに飾るオーナメントを作った。 ほかに、筆で文字を書いたりスタンプを使ったりする「オリジナル年賀状づくり」、小さな透明な容器に砂や石などを敷きミニガーデンをつくる「テラリウムづくり」など計七つのブースが設けられた。 午前、午後合わせて昨年より多い82人の小学生が参加。子供たちは二つの会場に設けられた各ブースを自由に行き来しながら、自分だけの作品を作っていた。 ちぎった和紙を台紙に貼り付けてオリジナルのクリスマスカードを作るブースでは、子供たちがちぎった和紙を接着剤で貼り付け、少しずつ形にしていく。工作時間は30分だが、10分ほどで仕上げる子もいた。 市内から参加した小学2年の女子児童は「参加したのは2回目。クリスマスツリーを作った。ていねいに教えてくれたので、思ったよりやさしかった。来年もまた来てみたい」と話していた。 テラリウムの指導にあたった同大生物資源学類2年の渡邊奏和さんは「自分は芸術専攻ではないが参加した。子供たちにどう伝わるかわからないこともあるが、子供が好きなので教えるのは楽しい」と感想を話した。(榎田智司)

サイエンス高校と筑波高校の魅力《竹林亭日乗》35

【コラム・片岡英明】文科省は11月、今年度補正予算に公立高校の魅力向上のために約3000億円の基金を設置すると発表した。この予算が成立すれば、学費無償化を含め、公立学校の魅力アップ策も導入されることが期待できる。こうした動きも念頭に置き、今回は県立のつくばサイエンス高校と筑波高校の学校づくりについて考えたい。 サイエンス高:探求重視の進学校 2022年まで4学級だったつくば工科高は、23年から科学技術科6学級で構成されるサイエンス高校となった。しかし、初年度の入学者は88人(つくば市内からは53人)、24年は77人(同53人)であった。そこで県は、「普通科を!」の声を受けとめ、学級編成を変更し、25年から6学級中3学級を普通科にした。すると、市内からの入学者は111人に激増し、全体の入学者も178人(つくば工科時代の22年は134人)に増えた。 24年→25年の中学別入学者数を見ると、並木中:1人→10人、谷田部中:5人→25人、谷田部東中:8人→21人、みどりの中:8人→12人など、地元の入学者が増え、県立高改革が軌道に乗り始めた。 その理由としては、ノーベル賞受賞の小林誠さんが名誉校長であること、4名の外国語指導助手(ALT)などスタッフや設備が充実していることが挙げられるが、私が注目しているのは教育課程である。どの教科を、いつ、どれだけ学ぶかは学校教育の要だからだ。 進学校には、2年生から文・理を分ける受験重視の土浦二高・牛久栄進高型と、1・2年は基本共通科目とし教養を重視する土浦一高・水戸一高型がある。サイエンス高は最初から文・理融合をモットーに教養重視型で、この大きな「構え」に設立当初のスタッフの深い理念が感じられる。 リニューアル開学3年目に学校見学させてもらったところ、学校も一新され、生徒が楽しく学んでいた。職員室前には、山形大工学部をはじめ10数人の大学合格者が掲示されていた。話を聞きながら、今後、京都市の堀川高校や千葉県の市川学園が参考になるのではないかと思った。 筑波高:地域と連携した多面校 小規模校の魅力アップは茨城県の重要な課題である。その点、地域との連携に踏み出した筑波高の学校づくりは注目に値する。改革2年目の進学コースの様子に関心を持ってお話を聞いたところ、少人数での学習だけでなく、進学コースのまとまりや意識も高まってきたという。今後が楽しみである。 先日、筑波高も参加している地元北条の「祭り」を見学した折、生徒の「学校が楽しい」との言葉を聞いた。小田城址で開かれたジャズフェスでのスタッフ活動や、老人ホーム訪問後、「次はあの老人をどうすれば笑顔にできるか」と工夫する取組みなど、フィールドを持つ学びの可能性を感じた。話を聞きながら、校内の川の清掃やヤギを飼うなど、幅広い学びのある武蔵高校・中学が参考になるかなと思った。 茨城の学校づくりのモデルに 筑波高は、保護者も卒業生という生徒が多く、地元とのつながりが深い。また、歴史あるサイエンス高は、地元中学の期待が大きい。地域の応援を受け、この2高が茨城の学校づくりのモデルになるよう期待している。(元高校教師、つくば市の小中学生の高校進学を考える会代表)

小美玉市にある「ぺんてる」の主力工場《日本一の湖のほとりにある街の話》35

【コラム・若田部哲】土浦市教育委員会に配属されて十年余り。児童の絵画コンクールなどにも関わる中で、近年、絵に親しむ子供が減っているという現実を痛感しています。背景には、娯楽の多様化や、カリキュラム・習い事の忙しさといった子供側の事情に加え、正解のない芸術を教える難しさという、大人側の都合もあるのかもしれません。加えて、当世を席巻する「タイパ・コスパ」志向とこの分野の相性の悪さも、無関係ではないでしょう。 しかし、自らのさまざまな感情を、絵の具をはじめとする多様な媒体に託して表現するという営みは、ラスコーやアルタミラの壁画を持ち出すまでもなく、極めて普遍的で、人間の根源的な喜びに満ちています。そうした「表現」の衰退を、寂しく思いつつ眺めていました。 今回は、その「表現の力」を支える現場のひとつ、小美玉市のぺんてる小美玉工場を、同社研究開発本部長の名須川さんに案内していただきました。クレヨンでおなじみの「ぺんてる」。多様な文房具を通して日本の教育を支えてきた同社の国内最大の生産拠点が、1964年に稼働を開始したこの工場です。 現在まで続くベストセラー、サインペンの生産拠点として、東京ドーム1.5個分の敷地に設立された工場では、創業当初、100人で1日1万本を製造していたところ、現在ではわずか2人で1日6万本を生産しているとのこと。サインペンに加え、ボールペンやクレヨンなど主力製品の多くが、ここで作られています。 文房具でも画材でもなく「表現具」 最初に案内されたのは、ロングセラーであるサインペンの製造ライン。1980年代製の武骨な組立機はいまも現役で稼働し、流れるような動きで次々と製品を生み出していました。隣の最新式ボールペン「エナージェル」のラインには、自社開発の組立機が整然と並び、部品が驚くほどの速さで形になっていきます。こうした機械の多くを自社内で作っている点も、同社の大きな強みだといいます。 続いて向かったのは、クレヨンの製造現場。顔料と油が混じった独特の香りが満ち、美術を学んでいた学生の頃の記憶がふとよみがえりました。3台の大きな円盤状の装置が止まることなく回転し、そのたびに1本1本、クレヨンが生まれていきます。 ドロドロに溶けたクレヨンの原料が型に下から注ぎ込まれ、一周する間に冷えて固まり落ちてくる様に、思わず目はくぎ付けに。色を切り替える際には機械を徹底的に洗浄する必要があるため、同じ色を1〜2日かけて作り続けるのだといいます。さらに、色を製造する順番も厳密に決められており、約12日で12色が一巡する仕組みになっているとのこと。こうして、ベストセラーの「ぺんてるくれよん12色セット」の出来上がりです。 最新機器と歴史ある重厚な機械が並び立つ空間で、人の感情を伝えるための多彩な道具が今日も生まれ続けています。「これからも『表現の力』を信じて、文房具でも画材でもなく、『表現具』を作り続けていきます」。穏やかにそう語る名須川さんの表情に、これからも表現の灯が消えることはないという、確かな希望を感じた取材でした。(土浦市職員) <注> 本コラムは周長日本一の湖、霞ヶ浦と筑波山周辺の様々な魅力を伝えるものです。 ⇒これまで紹介した場所はこちら