【コラム・岡田富朗】早坂義文さん(66歳)は「龍ケ崎光道館」という道場を開設しています。根岸流手裏剣術第七代宗家でもいらっしゃいます。この道場では、琉球王朝時代の武術、根岸流手裏剣術、無比流兵杖術、山本流居合術などの武術を伝え、現代武道とは異なり、競技武道は一切行わない古流の武術を伝えています。
道場には、日本のみならず世界中から門を叩(たた)きに武道愛好家が訪れます。訪問した日も、ドイツから沖縄古武術の稽古に来た方がいらっしゃいました。空手人気から始まり沖縄の武術は世界中に1億を超える愛好家がいるとも言われています。
しかし、世界中で現在人気を得ている空手は、沖縄の伝統的な空手を基に、剣道のしない競技を参考に寸止めなどをルールに取り入れ普及したもので、王朝時代の武術とは異なります。近代空手を沖縄から本土に広めたのは富名腰義珍氏で、嘉納治五郎の支援を受け慶応大学から始まりました。
茨城県の鹿島地方は古来、大和朝廷の東国経略の拠点として重要な地政を占め、常陸国一の宮・鹿島神宮を中心に栄えてきました。千葉県香取市の香取神宮と並んで、鹿島神宮の祭神・武甕槌命(たけみかづちのみこと)に象徴される、文字通り武道発祥の地であり、室町後期には、剣聖・塚原卜伝や松本備前守尚勝が世に出て一層武の里の名を高めました。
筑波大学の武道学研究室
また、筑波大学には武道学研究室があり、筑波大学の前身である東京教育大学に武道学科が設置されるに伴い、武道論講座が始まりました。武道論講座は、昭和44年(1969)に渡辺一郎助教授が専任として加わり「武道史概説」「武道伝書演習」「武道資料購読」の講義を開始したことにより、講座としての体裁が整えられていきました。
武道に関する貴重な資料も多数お持ちの早坂さんですが、早坂さんにとって大切な本をお伺いしたところ、今村嘉雄先生の「武道歌撰集」(第一書房)や「日本武道体系」(同朋舎出版)などをご紹介して頂きました。今村嘉雄先生も東京高等師範学校や東京教育大学で教授としてご活躍された方です。
他にも、渡辺一郎先生の「日本武道学研究」(島津書房)なども繰り返し手に取ってきた1冊として挙げてくださいました。筑波大学には、渡辺一郎先生の旧蔵書398冊を収めたコレクションがあり、その中には近世武芸に関する貴重な史料がたくさん含まれています。これらの本は、武道学や日本学の研究において非常に貴重な役割を果たしています。
今回は、武道の世界で12歳から柔道を始め、15歳で沖縄の武術に出会い、今では武芸百般に通じる早坂義文さんにお話を伺いました。(ブックセンター・キャンパス店主)
【おかだ・とみお】古書店主。駒込、巣鴨(庚申塚)、赤羽西口、旧軽井沢などで店舗営業をしたのち、現在、筑波大学近くにある古本屋「ブックセンター・キャンパス」(つくば市吾妻3丁目)を営業。88歳、つくば市在住。