【山口絹記】オトナになってからというもの、朝食を抜くことが多くなった。小難しい理由があるわけではなく、ただ朝が苦手なのだ。とはいえ、30代も半ばを越え、少し健康にも気を配らねばと思い、今年になってから朝食を作るようにしている。
基本的にはベーコンと目玉焼きにトースト、それからヨーグルトだ。これにコーヒーかオレンジジュースがつく。いつもたいてい同じようなメニューだ。
朝からメニューを考えるのが面倒、というのももちろんあるが、実はもう一つ理由があって、祖母が昔作ってくれた朝食を再現したいと試行錯誤しているのだ。ベーコンと目玉焼きとトーストに再現もなにもあるものか、と言われそうなのだが、これがどうにもうまくいかない。
そもそも、素材をそのまま焼くだけ、という料理はたいてい難しい。素材そのものに味が左右されるのはもちろんだが、ただ焼く、という調理法は存外、奥が深い。
サッと作る料理がおいしい
祖母は自分でも公言していたように、あまり料理が好きな人ではなかった。面倒だとケンタッキーやスーパーの刺身を買ってくることも多く、長時間キッチンに立っているタイプでもなかった。
しかし、「こんなものでいいかしら」とサッと作る料理がどうしようもなくおいしい。そして仕上がりは昔ながらの喫茶店のような安定感である。
いろいろなお店でベーコンを買ってきて比べてみたり、しまいには実家から当時祖母が使っていた鋳鉄(ちゅうてつ)の重いフライパンまでもらってきて試しているのだが、いまだにあの味にたどり着けないでいる。安定感とも程遠い。
カリカリのベーコンに、半熟の目玉焼き、たっぷりとバターののったトースト。私が作って朝食に出すと、こどもたちは無言で黙々と食べている。いつか私の味が思い出される日も来るのだろうか。コーヒーを飲みながら、朝からそんなことを考えたりする。(言語研究者)