【コラム・冠木新市】来年1月に開催する茨城県出身の詩人・野口雨情没後80年、『筑波節』『筑波小唄』誕生95周年のイベントを準備中である。いささか長いが、雨情からのメッセージⅢ・詩劇コンサ一ト『空の真上のお天道さまへの旅〜水戸歩兵第二連隊歌と土浦小学校校歌〜』がタイトルだ。『空の真上のお天道さま』は、雨情のノ一トに書かれていた遺作の詩である。
これまで、雨情のイベントをやるとき、必ず不思議な出来事が起きた。
昭和6年(1931)の『筑波節』『筑波小唄』のSPレコードをお持ちの方はご連絡くださいとラジオで呼び掛けたら、すぐに持ち主が現れた。おかげでCDに復刻することができた。
次いで、昭和7年(1932)『常陸龍ケ崎音頭(今朝も別れか)』の楽譜を探し始めた矢先、龍ケ崎市の職員さんが『一昨日、古本屋から楽譜が見つかった』と教えてくれ、早速楽譜が送られてきた。
また、大正末か昭和元年(1926)ごろ作られた『茨城県行進曲』は、東日本大震災のとき、茨城新聞社の棚が崩れ、そこからSPレコードが出てきて手に入り、SPレコード研究者の大学教授か゚無料でCDに焼いてくださった。
今回のイベントも同じで、会場費を安くしてもらおうと経営者に会いに行ったところ、企画に賛同していただき無料となった。即決だったため不思議に思い理由を尋ねたら、実は父上が水戸歩兵第二連隊の生き残りだと分かった。子供のころに歩兵第二連隊の話をよく聞かされたそうである。
また、イベントの件でスタッフ、キャストと連絡をとっていたとき、久しぶりに学生時代の友人から電話が入り、いま自伝のようなものを書いていて、私が出てくるらしい。彼は東大卒で卒業時に協力した。最近、イ一ロン・マスク株で儲けたそうだ。イベント費用もかさむので、昔の恩を返したらと軽口をたたくと、素直に振り込み先を知らせてくださいと言ってきた。
『フィ一ルド・オブ・ドリームス』
ケビン・コスナー主演の『フィ一ルド・オブ・ドリームス』(1989)は美しく不思議な映画で、4度めの鑑賞となる。
アイオワ州の貧しい農業経営者のレイは、トウモロコシ畑で「それを造れば彼がやってくる」との天の声を聞く。レイは、畑のなかに野球場の幻影を観る。レイが天の声に従い、畑の一部をつぶしグラウンドを造ると、トウモロコシ畑から無実の罪で野球界を追放になった亡きプロ野球選手が現れる。つまり幽霊なのだが、この世の人物みたいに描かれる。ここまでが15分ぐらいなので展開は早い。
すると、レイに「彼の痛みを癒せ」とまた謎めいた天の声が聞こえてくる。それは野球選手に憧れ、挫折し今は隠遁生活を送る作家テレンス・マンのことだと知り、今度は彼を訪ねる。ここから作品はロード・ムービースタイルとなる。
レイにはさらに、意味不明な第3のメッセージが聴こえてくる。これら3つのメッセージの意味をさぐる間、かってレイは父親と喧嘩し10代で家を飛び出し葬式まで父親と会わなかったため、心に傷を抱えていたことがわかる。ロ一ド・ムービ一は、レイたち関係者の過去を語る時間旅行でもあるわけだ。
ラストでレイは、ユニホーム姿の若き日の父親と再会を果たす。「造れば彼がやってくる」の彼とは、本当はレイの亡き父親のことだった。さらに天の声とはレイ自身の心の声だったことが明らかになる。
いま、野口雨情、水戸歩兵第二連隊員、戦前の土浦小学校卒業生と、心で対話しながらイベントの旅を進めている。そうそう、SPレコード『筑波節』を吹き込んだ北条芸妓連も忘れてはいけない。きっと、まだまだ不思議なことが起こるに違いない。サイコドンハ トコヤンサノセ。(脚本家)